3288 日本の政局のキホンを解説する 花岡信昭

在京の外交官たちに日本の政局がどうなっているかを解説するという珍しい体験をした。これまでも一部の大使館などに呼ばれたことはあるが、今回は笹川平和財団(羽生次郎会長)の主催で、イスラム諸国の在日大使館の大使や外交官に対して説明するというものだ。
笹川平和財団は今年4月に「中東イスラム基金」を新設、その事業の一環として政治、経済などを中心とした日本の現状をレクチャーする機会をつくった。その第1回の会合に呼ばれた。裏事情も含めて、ざっくばらんに、分かりやすくやってほしいというのが主催者側の依頼だった。
とにかく、1年ごとに首相が変わっているのだから、イスラム諸国の外交官たちにも日本政治の内情は理解不能の部分があるようだ。もっとも国内向けですら、この不透明きわまりない政局の行方を解析するというのは大変なことなのだが、それを在日外交官らにレクチャーするというのは、いったい、どこまで分かってもらえるか、悩むところだ。まあ、当たってくだけろの精神で、「イロハ」からの説明を試みた。
以下は、その概要である。「政権交代はあるか…自民vs民主の攻防戦の裏側」というのが求められたタイトルであった。
冒頭、豚インフルエンザについて触れた。不謹慎な言い方を許してもらえば、メキシコ発の豚インフルエンザがこれだけ各国に広がっているのだから、日本でもおそらくは感染者が出る。政府も本格的な対応を図っている。これを政局の観点からすれば、「麻生首相にまたひとつ、有利な材料が出た」ということになる。こういうときに解散なんてやっていられない、ということだ。
*完全に麻生首相主導に変わった日本の政局
(1) 自民vs民主の攻防戦は大転換
一時は麻生首相の支持率低下により、次期総選挙で民主圧勝が確定的とされ、政権交代が起きる可能性が大きかった。だが、民主党の小沢代表の政治資金問題で形勢は大逆転した。麻生首相は支持率を30%程度にまで回復した。
政局は完全に「麻生ペース」と言っていい。麻生首相が解散時期についても主導権を握ることになった。「勝てる」と判断した時期に解散できることになる。
(2) 解散時期が最大の焦点
いわれていた「5月解散」はほぼ消えた。麻生首相は15兆円規模の補正予算成立を最優先させる方針だ。補正予算案は27日に衆院に提出され、衆院通過は5月中旬の見込みである。この通常国会で2008年度第2次補正予算、2009年度本予算、そして補正予算と大型の予算3本を成立させようというのだから、これはかつてないことだ。
衆院通過後、参院審議がどうなるかが最大の問題となる。現在、衆院は与党(自民、公明)が3分の2を制し、参院は与党過半数割れの「衆参ねじれ」状態だ。衆院は強行採決が可能だが、参院ではすんなりとは通らない。
参院で民主党が早期採決(否決)方針を取れば、衆院での再可決(3分の2の賛成が必要)が可能になる。だが、民主党は小沢代表の政治資金問題により、早期解散要求を棚上げした。したがって、補正予算も「徹底審議」の構えだ。
参院で採決しないままだと、予算案本体は30日後に自然成立するものの、関連法案は60日後でないと衆院再可決が可能にならない。以上は憲法の規定である。
したがって、5月中旬に衆院可決の場合、7月中旬に「60日」を迎えることになる。今国会の会期は6月3日までだ。民主党が補正予算の成立先送りを狙った場合、麻生首相は7月下旬まで会期を大幅に延長することで対応する構えとみられる。
この間、7月8日からイタリア・サミット、12日に東京都議会選挙がある。麻生首相としてはこれをこなし、補正成立を見届けて解散に踏み切るのではないか。補正成立が早まった場合でも、解散は7月下旬以降になる可能性が大きい。
解散から40日以内に総選挙を行うことが憲法で決まっており、そうしたケースだと、8月18日公示、8月30日総選挙が考えられる。
衆院議員の任期(4年)は9月10日までとなっている。任期満了選挙の場合、解散前30日以内に行うことが決まっている。だが、任期満了選挙だと「解散できない政権」として政権基盤が弱体化する。これを避けるため、麻生首相が解散を選択するのは確実と見られる。
*自民も民主も「選挙の顔」が変わる可能性あり
(3) 小沢氏の代表辞任は
小沢氏が民主党の代表を辞任するのは確定的だ。街頭演説も行えない状況だと、選挙を戦うのは無理である。
代表辞任を先送りしているのは、東京地検の捜査が秘書の起訴以降、終結していないためである。さらに、小沢氏が政治力を残したかたちでの辞任にこだわっているためと見られる。
後継代表は岡田克也氏が確定的といっていい。党内に「派閥」がないことが逆に幸いした。菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長らでは党内がまとまらない。岡田氏は「贈答品はすべて送り返す」など、クリーンなイメージで知られる。
(4)「麻生vs小沢」から「舛添vs岡田」となる可能性も
麻生首相としては、解散をぎりぎりまで先送りすることで支持回復を待ちたい構えだが、ひとつ間違えると、民主党の岡田新体制が意外なまでの支持を獲得し、民主党再生ムードを生みかねない。麻生首相にとっては解散先送りは「リスク」も抱えることになる。
麻生首相の支持率が思うように上がらず、民主党への支持が戻ったとき、自民内に「やはり選挙向けのカオを替えよう」という声が出る可能性がないわけではない。
その場合、後継候補としては、与謝野馨、小池百合子、石原伸晃、石破茂各氏の可能性が出てくるが、いずれも党内をまとめきれない。そこで、舛添要一氏が浮上する可能性がある。自民党幹部の中にそうした動きもある。
舛添氏は厚生労働大臣だが、年金、雇用を担当しており、閣僚の中で「最も汗をかいている」イメージが強く、国民の好感度も高い。だが、参院議員であり、仮に、舛添氏を後継総裁とする場合は総選挙で衆院にクラ替え立候補(東京の比例1位など)することになろう。
*くすぶる大連立構想
(5) 総選挙の予想は…大連立もありうる
衆院の総定数は480だ。公明、共産、社民、国民新党そのほかで50-60。残り420-430を自民と民主で争う構図と見れば、分かりやすくなる。
一時は「民主280」などという予想もでたが、いま、そうした見方はない。自民、民主いずれも210程度で拮抗する可能性が高いのではないか。
自民としては210-220程度を獲得し、公明が25-30議席を得れば、過半数241に達することになる。その場合は自公連立政権が続く。
だが、自公与党も民主党も、いずれも過半数に達しない場合、なにが起きるか。互いに相手に手を突っ込み、必要人数を引き出そうとする「政界再編」が起きるのではないか。これが「小連立」のケースといっていい。
民主党が政権を獲得する場合、社民、国民新党との連立政権になり、共産党の影響力が強い政権になりかねない。社民党とは選挙協力を結ぶ。共産党は候補を絞り込む方針に転換したため、候補の出ない選挙区では共産支持票は民主候補に上乗せされるからだ。
そうした状況を嫌い、自民、民主が拮抗した場合、一気に「大連立」、あるいは一部を残して中核部分だけの「中連立」が出来上がる可能性もある。
小沢氏は一昨年、当時の福田首相との間で大連立に合意した経緯がある。代表辞任後も政治力を残していたら、自民、民主拮抗の局面では大連立に向けてもう一度走る可能性がある。
(6) 問題は総選挙後だ
仮に自公政権継続となった場合、3分の2を獲得するのはどうやっても無理で、過半数確保がやっとだろう。そうなると、「衆参ねじれ」は依然として継続し、それも、衆院再可決が可能な3分の2ラインを割り込むという新たな政治状況が生まれる。
そうした状況は、衆院再可決ができなくなるという点で、現在よりも政治の混迷が著しくなる。おそらく、国会は機能不全に陥る。
したがって、来年の参院選(3年に1度)で、衆院選とのダブル選挙の可能性が出てくる。自民党としては、衆院での安定多数を狙い、参院での与野党逆転状況を少しでも改善させていこうとするだろう。すでに来年夏を見通した政局がスタートしていると見ていい。
以上のような状況を回避するためにも、大連立ないし中連立が現実味を帯びることになる。「100年に1度」の経済危機に対応し、年金制度、消費税引き上げなどの国家的課題に取り組む体制をつくるというのが大義となる。
…以上が政局解説の概要だ。実際には麻生首相の素顔や登場した議員の実像など、ややきわどいオフレコ話もしたのだが、そのあたりをここで書くのは控えたい。政治解説はどうしても目先の動きにとらわれてしまうのが常なのだが、外交官を相手にしたレクチャーの場合、日本政治の構造、特質、中長期の見方を踏まえないと、おそらくは理解を得るのは難しい。そうしたことも含めて得難い勉強の場となったのである。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました