3835 医系技官の内輪話 石岡荘十

大臣の定例記者会見や引き続いて行われる事務方の会見は、役所のいわば表向きの顔であるが、大臣に何を言わせ、情報をどこまでオープンにするかの判断は、事務方の胸先三寸である。本音はお役人の内輪の話し合いで顔を出し、決まっていく。
19日、死者3連続という事態を受けて舛添厚労相は定例の記者会見で、「新型インフルエンザの本格的流行」と宣言した。これを受けて翌日、医系技官による部内の打ち合わせがあったのだが、彼らはそこで何を話し合ったのか。
オフリミッツの部屋を覗き見をするようでいささか気が引けるが、打ち合わせでの発言内容を入手したので、その一部をバラす。(以下、A、B—は医系技官。【 】は筆者注)
<8月20日 班長会議>
まず記者会見発表の内容について。
A:感染研(国立感染症研究所)から、定点サーベイランスの結果は毎週水曜夜にわかっている。これまで火曜発表だったが、金曜に発表するようにしたいとのことだった。【定点サーベイランス:全国5000ヶ所(医療機関)で感染者の観測・監視を行っている。平均患者数が1を超えると、流行が始まったと判断される】
B:会見で、医療体制整備とワクチンをやる、と言っているが、医療体制 の数字は言えない、ワクチンの数や日にちは言えない、となるので(会見が)持たない。他にも感染防止対策や手洗いなど言えることがないと持たない。【情報の公表時期をずらしてでも、記者会見に合わせて面子を失うことのないように小細工している】
C:もう(患者数が多くなりすぎて)PCRが追いつかない。入院患者は全員PCRさせる方針をやめたほうがいいのでは。【PCR:インフルエンザの病原体を見極める本格的検査法】
D:民間でPCRできないのか。
E:民間ではまだできない。
F:保険適用をどうするか議論し始めると間に合わない。「入院患者は全員PCR」という方針は止めよう。
B:今の医療体制で大丈夫だと記者に答えているが、1例でも救急で受け入 れられなかったらこの説明は破れてしまう。
F:ICUや感染症病床では足りない。一般病床に入れるから足りるのだ。
B:記者は重症例をじっと見ている。「まだICU(集中治療室)にいますね」「ベッド足りますか」「平均の入院日数は?」と(記者の質問は)だんだん専門的な質問になってくる。
F:入院率1.5%なんだろ?
G:はい。1日3万人入院し、平均7日入院とすると、ピーク時21万人入院。
F:ICUを期待するから(ベッドが)足りなくなるんだ。
H:南半球の状況。ピークは過ぎつつある。季節性インフルの3倍の患者数です。
F:3倍というと多いと思うが、入院患者数はどうなんだ。3800人ならたいしたことないだろう。
I:ピークまでの期間は?
H:4~5週間。
F:オーストラリアに調査団を出そう。【国内発症当時ニューヨークに調査団 を派遣したが、まだ症例報告さえ書けずにいるのに、また出すつもりらしい】
ふ:(重症感染者の)事例集はまだか。
G:事例集について、主治医から家族に同意をとってもらっているが、今はまだ聞けないなど色々あってまだ時間がかかる。
I:3~4例でもいいから早く出した方がいい。
F:そんなんじゃなくて30~40例まとめて出すんだ。
I:ニューヨークの数例でも、現場は役に立つとあんなに喜んでいる。出せるものをどんどん出して追加していけばいい。
F:やらんでいいとは言わない。
B:学校閉鎖とも絡む。文科省にちゃんとやってくれと厚労省から言う必要がある。
F:予防・軽症者全員にタミフル使うのか決めないといけない。季節性でも全員が使ってるわけじゃないんだろう。これから増えたりH5(鳥インフルエンザ)が来たりしたら足りなくなるかもしれない。
D:イギリスみたいに電話一本・ドライブスルーでタミフル配るか。
F:それが重要な点だ。誰かタミフルどうするべきかレポートまとめてくれ。【ワクチンどころか、抗ウイルス剤タミフル投与の基準、配布の方法も決まっていない。イギリスでは、症状が出た場合、病院に行かなくても、インターネット上で症状に関する10問程の質問に答えるだけで、処方用の番号が発行される。番号を指定された施設で提出すると、無料で入手できる制度が出来ている】
I:9月2日に都道府県の担当者会議のために講堂をとってあるが、諮問委員会の日程上ワクチンについても言えることはない。
会議の模様をずっと聞いていた大谷官房長が最後にこう発言している。
「ワクチン確保については、官邸もかなり心配している。選挙どうなるかわからないがおそらく政権交代あり得る状況。厚労省でもっと詰めてから官邸に持っていくこと。ワクチンと医療どうするか、全体のス ケジュールなどについて、厚労省として本部としての報告を来週にはするように。引き締めなおしてやるように」
J:今週中に官房長へ、来週官邸へ上げる予定です。【官房長官は、医系技官上がりではない。法令が専門の事務官だ。顔は官邸に向いている。政権交代が気がかりらしい。Jも医系技官ではない】
以上が、日本の新型インフルエンザ対策だけでなく全ての医療制度の設計に事実上、決定権を持つ医系技官の叡智を集めた会議の模様である。入手したやり取りを読んだ感想は、ドロ縄、行き当たりばったり、思いつき、保身—。
免疫力の低い高齢者は心臓、腎臓、糖尿、肥満など基礎疾患を持つ年代だが、タミフルもワクチンもまわってこない可能性が高いことがよくわかる。
となると、この冬は、夏バテを一日も早く回復し、うまいものを喰って体力を涵養し、数か月分の保存食を備蓄し、投票所のような人が集まるところへ出かけるのは避け、自宅に引きこもって食いつなぎ、ウイルスの嵐をやり過ごすしかないのかもしれない。
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