8789 ギングリッチ大統領候補の急浮上の秘密 古森義久

アメリカの大統領選でのギングリッチ現象についてです。月並みなセリフですが、政治というのは不可思議です。予測が不可能とさえいえるでしょう。
いまのアメリカ大統領選の共和党レースでニュート・ギングリッチ元下院議長の人気が急にあがって、これまでの本命のミット・ロムニー(この名前は発音どおりだと、ラム二ーがより正確なのですが)氏をも圧倒する勢いなのです。1月3日に党員大会が催されるアイオワ州でもギングリッチ候補がロムニー候補にかなりの支持率の差をつけました。
ギングリッチ氏への支持は最近の世論調査では、民主、共和両党の支持層が拮抗している「スウィング州」と呼ばれる3州でもロムニー氏を圧し、オバマ大統領と正面対決をしても勝ちかねないという数字が出たのです。以下のような支持率です。
オハイオ州
 ギングリッチ対オバマ  43%対42%
 ロムニー対オバマ    43%対42%
ペンシルベニア州
 ギングリッチ対オバマ  40対48
 ロムニー対オバマ    43対46
フロリダ州
 ギングリッチ対オバマ  44対46
 ロムニー対オバマ    45対42 
さてギングリッチ氏といえば、常に論議を呼ぶ政治家です。保守主義の論客として、保守ながら斬新な思想や政策をわかりやすく、情熱をほとばしらせて語り、聴衆を魅了します。討論会では論敵を圧倒します。実際に「小さな政府」「自助努力」「強いアメリカ」など一連の保守哲学を説かせたら、彼を上回る政治家は少ないでしょう。
ギングリッチ氏には1994年の下院選で共和党の保守派の候補を率いて、40年ぶりに初めて民主党を大差で破ったという輝かしい実績があります。この選挙戦ではアメリカ国民への公約として「アメリカとの契約」という一連の政策を掲げました。勝利後は最初の100日間でその公約を実行するという作業を進めました。
その一方、アクが強く、敵が多いことでもギングリッチ氏は有名です。物言いがラフで、他者を傷つける言辞がよく出てきます。リーダーシップにもムラがあるとされます。そのためか1998年の選挙では共和党は後退し、ギングリッチ氏は議員までも辞任しました。
ギングリッチ氏は私生活でも結婚が3回、最初の妻が癌と診断され、闘病中に離婚をしたことを非難されてもいます。著書が多く、ベストセラーもあって、印税収入も豊富であり、その使途をめぐっての疑惑も提起されたことがあります。
要するに、優秀なイデオローグではあっても、一般国民にアピールするタイプの政治家というのが定評でした。だから今年の前半に今回の大統領選への立候補の名乗りをあげたものの、人気を呼ばず、撤退を思わせる言動をとっていました。このため、こと大統領選挙に関しては、もう脱落した政治家という印象がきわめて強かったのです。少なくとも私もそう思っていました。
ところが11月ごろからギングリッチ氏の人気が再燃焼したのです。その理由の秘密はなんなのか。
第一は共和党側のロムニー氏をはじめとする既成の候補者たちの魅力不足、保守主義不足ということでしょうか。
第二は、オバマ大統領の「大きな政府」、リベラル路線へのアンチテーゼとしてギングリッチ氏が明快に説いてきた純正保守主義の再評価でしょうか。
第三は、一般有権者の記憶の短さとでもいいましょうか。ギングリッチ氏の過去の弱点や欠陥を知る人が少なくなったのかも知れません。
さて私自身がギングリッチ氏の思想について彼の著書を通じて書いた記事を以下に紹介しておきます。もう16年も前の記事ですが、彼の思想はいまも変わっている兆しはありません。
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<<衰退する米国へ保守理論展開 ギングリッチ下院議長、新著で話題さらう>>
【ワシントン3日=古森義久】米国の保守主義のヒーローとして脚光を浴びるニュート・ギングリッチ下院議長の著書が二日、全米で発売され、話題の輪を大きく広げた。「アメリカ刷新」と題されたこの書は四百五十万ドルの前払い金が一時、決まった注目の作 品。内容は下院共和党が同議長の主導で米国政治のパラダイム(規範)を変えたとされる政策集大成「アメリカとの契約」の続編といえ、「米国の伝統の価値観 の復活」「小さな政府」「官僚政治の排除」などを打ち上げている。
「アメリカ刷新」は大手出版社のハーパーコリンズ社から刊行された。この書は共和党が四十年ぶりに多数を占めた下院でギングリッチ氏が議長となった直後のことし一月、話が出た。
歴史学の教授で、新奇なアイデアにあふれ、すでに挑戦的な著書のあった同氏が下院議長となってからの初の新著とあって、大手出版各社が版権の入手を競い、 膨大な額の執筆前払い金を提示した。なかでも最高額の四百五十万ドルを申し出たハーパーコリンズ社が結局、版権を得た。
だが、この金額のあまりの大きさに民主党などから激しい非難が起き、ギングリッチ氏も当初はゴア副大統領らも多額の前払い金をもらって本を書いたではないか、と取りあわなかった。だが、「この問題で共和党の改革に悪影響を及ぼしたくない」として、四百五十万ドルを辞退し、一ドルだけを受領し、残りは印税収入のみという契約へと変えた。
その「アメリカ刷新」は「米国にとっての六つの挑戦」として、
(1)いま衰退し、逸脱しつつある米国の文明を本来の伝統へと戻す(個人の責任や個人の自由 に基づく米国本来の価値観は一九六五年以来、一部エリートにより変えられてしまった)
(2)米国の国際的な技術革新の第三情報時代への参入を急ぐ
(3)世 界市場での新たな経済競争に備え、国内のシステムを変革する(経済競争の能力を抑える政府の規制、税制、社会福祉、教育、官僚政治などを大改革する)
(4)福祉国家を機会社会へと変える(政府の援助への依存を奨励する福祉制度を根本的に変えて、個人の努力が成果を生む機会均等の社会を築く)
(5)中央 集権の官僚機構を改革し、規制を大幅に撤廃する(米国は首都に座っている官僚の中央集権で統治するには多様性、自由の度合いがあまりに高すぎる)
(6)連邦政府予算の均衡を実現する(種々の社会福祉や救済への政府支出が多すぎるため、このままだと連邦財政は破産する)
-ことを列記し、それぞれについて対策 を具体的に提唱している。
世界の中の米国については、この書は他国の領土に野心を抱かない成熟した民主主義国家の米国はいま唯一の軍事超大国であり、混迷する世界では特別なリーダーシップを保持する責務がある、と述べる。
そのためには、米国は一定以上に強い軍事力を保つ必要があるとして、民主党の唱える軍事力の大幅削減には反対し、ギングリッチ氏自身、「私は安全保障に関してはタカ派であり、タカ派的な防衛政策こそが平和を守るのだ」と強調している。
日本に関してはギングリッチ氏の新著は意外に好意的で、一九五〇年に米国人のエドワード・デミング氏が日本の生産性向上を指導したことを詳述し、日本が米国よりも生産性の向上に努力してきたことを称賛している。
しかし ギングリッチ氏は「集団の権利と個人の権利」については、個人の権利や自由の絶対的重要性を力説し、日本ふうの「集団のために個人を犠牲にする」といった思考を激しく排除している。
杜父魚文庫

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