習近平の側近は誰々で、後ろ盾(庇護者)は誰で、そして幼なじみは?過去のファイルが不明瞭な習近平人脈の構造から迫る次期中国皇帝の謎。
「最強」と読み違えた。反対だ。「最弱」の皇帝である。
習近平はこれといった特色が無く、豪腕な政治改革からはひどく遠い場所にいた。八方美人型で、個性を突出させない。だから老人キラーであり、大勢順応の政治家であり、特権階級の利権だけは必ず維持すると見込まれた。
人事抗争の土壇場で江沢民と曽慶紅が共青団の足下をすくい、次期後継になりかけていた李克強の目をつぶした。直前、上海書記の陳良宇が失脚した空白を、上海派はさっと、この習近平で埋めたのだ。
この分析、すでに小誌の読者ならおなじみだろうが、日本のチャイナ・ウォッチャーの意見ではあまり見かけない。しかし習は現時点で太子党をまとめきっていない。矢板氏はつぎのように分析する。
「習近平は太子党という派閥の中心人物といわれているが、上に同グループの精神的指導者、曽慶紅がおり、派閥内に薄き来・重慶市書記という強力なライバルがいる。共産党書記に就任してから、太子党をまとめるのに少なくとも数年はかかるだろう。
太子党と対抗する共青団の中には、李克強副首相、李源潮党中央組織部長、王洋広東省書記ら実力者がいる。かれらは後継者争いで習近平に敗れたが、競馬でいうと、鼻差や首差のような僅差で負けた。
内心では『習近平の親の七光りにはかなわないが、政治家としての能力や個人的な魅力なら絶対に負けない』と思っている」。
それゆえアンチ太子党の共青団が「どれだけ本気で習近平体制を支えるか」
さるにても「新皇帝」になる習近平はいったいどういう人物かを、北京特派員の矢板さんは豊富なデータと独自の取材人脈からカバーし、立体的にイメージを構築した。
まったく無名で、さきの訪米でもアメリカ人一般は「WHO IS XI?」といった。「習」は英語表記では[xi]だが、SHEと紛らわしく、「今度の中国のトップは女か?」というジョークもあった(香港誌『開放』三月号)。
さて習近平は革命元勲、元副首相の習仲勲の四男、母親は革命理論派で、いまでもゴッドマザーの位置にあって健在。じつは習の最大のブレーンは、この母親だという。姉は不動産デベロッパーで大当たり、香港の大富豪、弟も実業家。娘は変名で米国ハーバード大学に留学中。
これで革命元勲や長老達の顰蹙を買わないのか不思議だが、いまの中国は反米反日を口にしながら、やっていることは逆さまである。
さて習近平は父親が追放されていた間、どのような辛酸をなめ、いかなる環境で幼年から子供時代を送ったか、本書はあますところなく少年時代の交友関係を捜し出し、故郷にもわざわざ飛んで取材している。
このあたりフットワークの良さも本書の魅力である。近未来に示唆的なのは習の周りを囲む幼稚園からの遊び友達、中学の同級生など。なかでも劉少奇の息子、劉源はこれから軍の内部で卓越した位置を確立するだろう。かれは習の幼なじみである。
かようにして本書は立体的に、人脈図をふまえての習近平論であり、異色であり、さらに言えば外部からはうかがい知れない共産党王朝の内部情報に溢れ、スリラー小説のように面白いのである。
杜父魚文庫
9260 書評 矢板明夫『習近平 共産中国最弱の帝王』(文藝春秋) 宮崎正弘
宮崎正弘
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