11919 書評「”新封じ込め戦略”の全貌」  宮崎正弘

アメリカの静かなる戦略変更はこうしてなされていた。ユニークな米軍の戦略転換を多様な情報を解析してパノラマのように描く。  
<<越智道雄『覇権国家アメリカの中国「新封じ込め戦略」の全貌』(李白社)>>
越智道雄氏は明治大学名誉教授。英文学、英語の達人。アメリカ通。ところが越智さん、基本は作家なのである。想像力と表現力を重視する作家の目で国際情勢を、やさしくではなく、かなり厳しく見ている。
その立場はとことんユニークで、語彙は記号に満ちており、ちょっと国際情勢に詳しい読書人でないと咀嚼できない個所も頻繁に登場する。たとえば「憤青」「東洋のユダヤ人」「二河白道」「資源災厄」等々・・・。
ちなみに後者の「資源災厄」はジョージ・ソロスが作り出した中国の状況を指す。
通読して、この本は内容が詰まりすぎである。肩が凝ったほど、情報が豊富で、なかでも瞠目するべき記述が幾つかあるが、尖閣諸島とディエゴ・ガルシア岩礁における米軍基地とを「浮沈空母」として軍事上の要衝と位置づけての未来比較など、誰も論じたことがなかった。目から鱗が落ちた。
しかもアメリカの戦略を、その奥行きの深さと怖さを、中国との戦いを通して描いた画期的な分析である。米軍のプレセンスの在り方も、「オンショア」から「オフショア」に転換しているという。
典型をフィリピンのクラーク基地、スービック湾に見ているが、「基地概念の新手」即ちCSL(協力的安全基地使用)がさりげなく、登場し、当該国との文化摩擦回避に使われているというではないか。
飛躍的に静かに、しかし着実に現地女性と結婚した元米兵が主力のCSL戦術は各地で行使されている。
「シンガポールでは、CSLによって米の核艦艇の寄港許可はもとより、国外の調停まで関与、イスラム系テロリスト摘発、ブルネイにジャングル戦闘訓練基地の設置、インド空軍との合同の空爆演習、タイ北豪での訓練と大いに貢献してきた(シンガポールは、中国の拡大主義に最も怯えているため)」。
そしてこう言う。「より細身で、より凄みがある基地」、それが米軍のCSLである、と。
ほかにも「えっ」と驚く情報が満載で、その抉り方が親米でも反米でもなく、このようなアメリカ解析は政治、軍事、文化、文明に及ぶ。
何が一等独創的かと言えば、保守論客のアメリカ通である(といわれる)日高義樹、手島龍一、古森義久、田久保忠衛ら各氏のアメリカ戦略解説と格段に異なる位相から、世の中を見ている点がユニークなのである。
ときおり中国の分析に関して、評者のそれと酷似して居るなぁと思いながら読み進むと、小誌からの引用だったり、やはり内容が詰まりすぎの観がある。
杜父魚文庫

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