<国連安全保障理事会は27日、シリアに化学兵器の廃棄を義務付ける決議を全会一致で採択した。10月1日からシリアに対する国連の査察が始まる。
今回の決議は法的な拘束力を伴うが、米ロ間に隔たりがあるため、シリアが廃棄義務を怠った場合にも自動的に強制措置を講じる内容にはなっていない。
米ロの綱引きで米国が譲歩を強いられた結果であったのは明らかである。ロシアのプーチン大統領は高揚感に包まれているであろう。反対にオバマ米大統領の外交力には米国内でも懸念する空気が生まれた。
ただ、それがロシアの外交的な勝利と即断することは出来ない。むしろロシアが制御不能なアサド大統領という厄介な存在を抱え込んだ可能性が指摘されている。
英ロイターは国際政治学者イアン・ブレマー氏がコラムで、この点を詳述している。
<ロシアのプーチン大統領は、最高に楽しい夏を過ごしたことだろう。米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン容疑者に一時亡命を認め、最大のライバルである米国に一泡吹かせた一方、シリアの化学兵器使用疑惑をめぐっては交渉の主導権を握った。プーチン大統領がニューヨーク・タイムズに寄稿し、シリア軍事介入に警鐘を鳴らしたことは大きな話題となった。
こうしたことから、プーチン大統領とロシアが外交で「独り勝ち」しているというのが一般的な見方だが、果たして本当にそうだろうか。ロシアが勝利して得たものは力ではない。むしろ、自分の首を絞める結果を招いた。
実際のところ、プーチン大統領は、シリア、スノーデン容疑者、ソチ五輪といった問題でさまざまな「合併症」を引き起こしている。国家としての最大限の利益よりも、自身のエゴや国際的な正当性を個人的に追求した結果、プーチン氏が得た勝利は表面的なものになったと言える。
シリア問題では、プーチン大統領がオバマ米大統領の顔をつぶしたことは明らかだ。ロシアが交渉を主導し、米国の軍事行動へのモチベーションを最小限に抑え、オバマ大統領の外交政策の評判を損なわせた。世界の政治力学という視点から見れば、これは全く申し分ないに違いない。結局、プーチン大統領ほどその力を強固なものにした人は他に誰もいないだろう。
しかし、このことはロシアという国家にとって何を意味するのか。ロシア政府は結果的に、戦争犯罪をやめず、民主的な全ての先進国から「ならず者国家」とみなされているシリアのアサド政権との結び付きをいっそう強めた。シリアを支援すれば同国での足がかりにつながるかもしれないが、アサド大統領は大きな賭けに値する人物ではない。ロシアは確かに勝利したが、ほとんどの国が望まないアサド政権との関係強化を手に入れただけだ。
スノーデン容疑者についても同じことが言える。同容疑者に一時亡命を認め、米国の面目をつぶしたことは、プーチン大統領の大勝利と映るかもしれない。しかしその結果、ロシアは米国との関係悪化と、新しい情報をこれ以上持たないであろう容疑者への亡命許可という代償を支払うことになった。
ロシアはスノーデン容疑者を受け入れたが、今ではその処遇に苦慮している。同容疑者が本当に「戦利品」であるなら、中国がだまっているはずはなかった。中国は有益な情報を聞き出すには十分と思われる期間、同容疑者をとどめ置き、その後ロシアへと渡るのを止めなかった。ロシアは貧乏くじを引かされた格好だ。
勝利から窮地へと追い込まれた例はすでにある。ソチ五輪が決まった時、ロシア金権政治の新たな幕開けと見られていたが、同性愛に対する厳格な法律や反プーチン政権の曲を演奏した女性バンド「プッシー・ライオット」をめぐる問題は五輪を政治化しかねない。抗議活動や国際社会の監視によって、ソチ五輪がロシアの政治的自由や人権を問う場へと一変する可能性を秘めている。もちろん、五輪が開催されるソチが、イスラム武装勢力が拠点とする北カフカス地方に隣接しているという治安リスクは言うまでもない。
五輪開催がロシアに経済的利益をもたらすことも言うまでもない。たとえそれが、プーチン大統領の友人たちに限られていたとしてもだ。ソチ五輪の費用は予算を500%上回っており、五輪史上最も高額な大会となる。だが、そうした費用は主に、五輪後もロシア国民の利益となり得るインフラ投資よりも汚職に使われている。ソチ五輪が開催されるころまでには、競技以外のことが世間を騒がせていることだろう。
勝利に酔いしれ、かつてないほど楽しかったであろうこの数週間で、プーチン大統領は国内外の権力強化に努めようとしただけでなく、ロシア国民の利益より個人の利益を追求した。その結果、ロシアが背負わされたのは、米国の激怒とシリア政府との関係強化、史上最も不明瞭な五輪予算という全く割に合わない代償だった。(ロイター)>
杜父魚文庫
14114 プーチン大統領の「外交独り勝ち」は本当か 古澤襄
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