北朝鮮の張成沢処刑が日本にどんな影響を与えるのか。日本人拉致事件の解決をどう動かすのか。報告の続きです。
<北朝鮮の残酷な処刑が、日本に好影響を与える理由>
このシンポジウムの内容は公開されており、マスコミ関係の人たちの参加も多かった。だから私の発言ももちろん公開されている。しかし個々人の発言の 時間は限られていたため、十分な説明ができなかった。そこでこの場を借りて発言の趣旨を細かく説明しておきたいと願う次第である。
しかし思えば、北朝鮮の異常な政変も、あの国、あの政権が一体どうなるのかを考えるうえで、その解釈は極めて重要である。特に処刑の日本人拉致事 件への影響は、日本にとって特別な意味を持ってくる。なにしろ日本国民の男女が北朝鮮政府の工作員に拉致されたまま気の遠くなるほどの歳月が過ぎ、その解 決の兆しは安倍政権の熱意の表明にもかかわらず、いまのところまったく見られないのである。
■米国の北朝鮮への態度がますます硬化
私は「張粛清は日本人拉致事件の解決にとって必ずしもマイナスを意味しない」と述べ、「プラスと思える要素もある」と強調した。その根拠として挙げたのは以下の2点である。
第1には、今回の出来事が米国の政府や議会、世論の北朝鮮に対する態度を硬化させる点だった。
日本人拉致事件の解決に向けて、日本政府は「対話と圧力」という対応を掲げてきた。だがいまのところ「圧力」の方にずっと多くの比重がかかってい る。米国もこの点、同様である。米国は北朝鮮の核兵器開発の阻止を対北政策の最大の主眼とするが、そのアプローチの中心は経済制裁などを中心とする「圧力」である。
ただし米国の議会や民間には異なる意見もある。北朝鮮を穏健な国にして、核武装を放棄させるには、経済援助や外交承認などソフトな政策をとるべき だという声も、少数派ながら常に存在してきた。
歴代の政権が実際に宥和策をとったこともある。ブッシュ前政権による北朝鮮の「テロ国家指定」の解除や、金正日政権に直結したマカオの中国系銀行口座の凍結の解除などがその実例である。だがこうしたソフト路線は日本人拉致問題の解決にはマイナスの結果を招いた。日本政府がとっている経済制裁、金融制裁などの実効を弱めてしまったからだ。
この背景を考えると、張粛清の報道の直後にオバマ政権が見せた対応は日本にとってもプラスだと言える。
国務省報道官は公式の記者会見で「この粛清は北朝鮮政権の極端な残虐性の実例だ」と述べた。政権自体が「残虐」だというのである。ジョン・ケリー 国務長官も張氏の処刑について「金正恩氏がいかに冷酷で無思慮であるかを示した」と非難した。共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員も金正恩氏に対し「倒錯した言動をとる国際脅威の人物」と断じた。(つづく)
杜父魚文庫
14915 金正恩の残虐性がアメリカを硬化させる 古森義久
古森義久
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