17600 経済が政治を動かす一方的誤認識に堕してはならない    古澤襄

洋の東西を問わず経済が政治を動かすというのは、一面の真理であるのは否定しない。だが豊かな経済が、その国の衰退を招いた例は歴史が示している。私の基本認識は「北の貧しきバーバリアン(野蛮人)が南の豊かな文明を滅ぼす」ということにある。
その代表的な例は世界を支配したローマ帝国の衰亡と崩壊であろう。だからこそ18世紀のイギリスのエドワード・ギボンが著した「ローマ帝国衰亡史」の歴史書が古典として今日でも読み継がれてきた。
アジアでも草原の民であるモンゴルが当時としては豊かな文明を持っていた宋王朝を滅ぼし、近くは旧満州の女真族が万里の長城を越えて明王朝を滅ぼしている。
岩波文庫が1992年に発刊した全10巻の「ローマ帝国衰亡史」(原著は1951年)は繰り返し読んだが、村山勇三氏の翻訳が原本に忠実なあまり難解で苦労した経験がある。
歴史学徒でなければ筑摩書房が1976年から発刊した中野好之訳の「ローマ帝国衰亡史」の方が読みやすい。
ただギボンをもってしてもローマ帝国の衰亡原因を特定できないでいる。いくつかの衰亡に結びつく内的な事象を重視して列記しているだけである。
たとえば末期のローマ人は初期の質実剛健な気風を忘れ、軍事をないがしろにして傭兵に依存している。そして多くのローマ人は大帝国の繁栄に酔って、この繁栄が永久なものと信じていた。私は大帝国が成ったローマは軍事・政治をないがしろにして、繁栄の果実を経済だけに求めたものだと解釈している。
これらは文明が飽和点に達すると内部から崩壊の兆しが生まれると指摘している。内的な崩壊事象が外的な侵略を招くのは正しい歴史認識である。
そのことは、ローマ帝国を滅亡・崩壊に導いたのは北方のバーバリアン・ゲルマン民族のローマ侵攻であるのは論を待たない。雇われた傭兵ではゲルマン民族の侵入には抵抗できない。
ベトナム戦争で敗退したアメリカをローマ帝国の衰亡過程になぞらえる論調が一時さかんになった。超大国アメリカはたしかに第二次世界大戦の直後のような力を失っている。しかしアメリカはいまもって軍事力では世界では抜きんでた力を保持している。とくにアジアでは急速な軍事力強化をみせている中国を意識して海軍力、空軍力を保持し、少しも減らしてはいない。
軍事は政治の延長線上にある。アメリカはオバマがどうであろと内政・経済の重視型よりも軍事・政治の重視型とみるべきであろう。だからこそアメリカ国民はオバマの内政、外交の失政に失望しオバマ支持は急落している。
むしろ中国の方が急速な経済発展に心を奪われて、危険な経済崩壊の淵に立ったとみるべきではないか。日本は安倍政権が経済再生のアベノミックスに専念すべきであろう。その過程で明治日本が志向した質実剛健の気風を再認識する必要がある。
間違っても世界第三位の経済大国という架空の豊かさに酔いしれて滅亡・崩壊の悪しき道に迷い込んではならない。
杜父魚文庫

コメント

  1. 大橋圭介 より:

    古沢さんらしい、的をしっかり撃ったすっきりした論評にせっし、嬉しくなりました。

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