新型インフルエンザのワクチン接種を、いよいよ来月下旬から始めると政府が明らかにしている。ワクチンについては紆余曲折、ここに至るまでいろいろな問題があった。
例えば、1億数千万人の国民のうち、ワクチン接種が必要な人は5400万人と試算されているが、この数字にはエビデンス、つまり科学的根拠がないという異論があり、いまだに明確な根拠は示されていない。しかもこれを認めたとしても、実際に用意できるのは、国産分では1700万人分に過ぎない。圧倒的に、足りないのだ。
したがっておのずから優先順位をつけなければならないのだが、その順位をどうするか。まず患者を診る医療従事者を最優先とし、つぎに妊婦、妊婦、基礎疾患(持病)のある人などの優先対象者には10月下旬にも出荷が始まる国産ワクチンを使う。
足りない分は海外メーカーから輸入。接種が望ましい小中高校生や持病のない高齢者には原則として輸入ワクチンを使うと国は言うが、その場合、輸入ワクチンで副作用被害が出たらどうするのか。ワクチンの安全性をめぐるいろいろな問題がある。
欧米では被害者への補償(4000~5000万円)と共に製薬会社に対しても過失がなければ責任を問わないという制度(無過失免責補償制度)が確立しているが、日本では、任意の接種の場合の被害補償は700万円に過ぎず、メーカーの免責を保障する制度はない。
海外メーカーからすると、万一副作用が出たりすると、高額な損害補償を求められるかもしれない日本には、ワクチン売りたくないとびびっている。免責を求めてきているという。これをどうクリアするか、今でも交渉が続いている。出来るだけ速やかに必要な法改正を急ぐことになっているが、時間がない。すんなり必要分を確保できるかどうかは、いまだ不明なのである。
さて、それやこれやで問題は多いが、ともかく決められた優先順位に従って接種を始めることになった。
ここでの問題は、接種の仕方、方法である。ワクチン接種は国と委託契約を結んだ医療機関で、原則予約制で行う。厚労省は医療機関を都道府県の医師会の協力を得て選び、来月(10月)下旬をメドにリストを公表することを、8日決めた。
ところが、早くも、この方法に対して地方の開業医(複数)から「机上の空論だ」という異論を唱えるメールがウェブ上に相次いで掲載されている。
「狭いクリニックの中でインフルエンザ患者とこれから接種して免疫を付ける者が同居することになる。ワクチンを接種して免疫を付けたい人が、わざわざ自分が免疫のない病気の患者のそばに行く形になる。
これについて厚労省はクリニックのような医療機関であっても場所や時間帯を分けることなどにより対応可能と考えている、とのことであった。しかし、現時点ですでに、発熱患者とそうでない患者を場所や時間を分けて診療することに苦慮しているクリニックに、さらにワクチン患者も分ける時間・空間的(診察時間をずらしたり、場所を変えたりする)余裕がどこにあるというのだろうか?」
どこで誰がワクチンを打つのか。現場での混乱は目に見えているという。アメリカの医療関係者からの報告がある。
<アメリカでは、州ごとにワクチンの計画がされており、すべての州でワクチンを供給する計画を立てている。ワクチンは、病院や学校以外にも薬局や職場など私的な場所でも受けられる準備をしています。米国(テキサス州)でユニークなシステムとして、マクドナルドとの提携があります。
ワクチン接種用の車が特別に用意されて、マクドナルドの駐車場でワクチン接種が行なわれます。子どもが、マクドナルドでワクチン接種を受けると、ワクチン接種のご褒美としてアイスクリームがもらえます>
こんな発想が出来るのは、アメリカではすでに全国民が必要とするであろう充分な量のワクチンを確保してあり、優先順位を勘案する必要がないことが挙げられる。
接種を受けるかどうかの判断は、勿論、個々人に任されている(任意接種)が、オバマ大統領が自らテレビに出演し、「ワクチン接種を推奨(recommend)する」という声明をと発表している。ということは、万が一、副作用の被害が出た場合、国がその補償に責任を持つ約束をしたと考えていいだろう。接種は無料である。
対して日本では、厚労省が接種を受けた人やその保護者から、必要な2回分の実費相当分(7000~8000円)を徴収することを決めた。
お金のない人には別途、所得によって無料または援助を検討するというけちけちぶりである。この彼我のお国柄の差は一体どのような判断の違いから出てくるのか。
新型インフルエンザは個人の病気ではない。社会が病んで危機に瀕している。放置すれば、社会的な混乱を招き、経済的にも重大な損失をもたらすおそれがある。国民から政治的に責任を問われかねない。ワクチン接種は国家の危機管理の問題である。したがって高度な政治判断が必要だとアメリカでは考えられているからに違いない。
日本で発表されたワクチン対策は所詮、官僚の責任逃れの作文に過ぎない。先に発表された厚労省による「被害の想定」で、未曾有の危機を予想していながら、高度な政治判断をすることなく、ど素人(医系技官)の作った路線に乗ってわれわれは新型インフルエンザ第二波を迎えることになる。
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3956 ワクチン接種お国柄較べ 石岡荘十
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