5680 「皆さん」の鳩山、「我々」の麻生 岩見隆夫

選挙が近づくと、党首の力量が問われる。どの党首がもっとも強く有権者を引きつけそうか。鳩山由紀夫、谷垣禎一、渡辺喜美、山口那津男、志位和夫、福島瑞穂、平沼赳夫、舛添要一、亀井静香、田中康夫、山田宏(政党支持率順)の11党首。集票力で順位をつけるのはむずかしいが、突出した人気者はいない。
ところで、集票力に欠かせない一つは、演説による訴えに迫力があるかどうか。昨年8月、劇的な政権交代を実現させた衆院選の渦中、政治家の街頭演説を現場で記録し分析を試みた学者がいる。東照二(あずましょうじ)立命館大大学院言語教育情報研究科教授、53歳。
街頭で集めた政治演説の実証的研究は、これまで例がない。東はこの分析結果を「選挙演説の言語学」(ミネルヴァ書房)にまとめ近く出版する。
ここで取り上げられた政治家は、野田聖子、馬淵澄夫、菅義偉、舛添要一、赤松広隆、岡田克也、小泉純一郎、石破茂ら17人にのぼる。出色は、<第2章 ことばを失った党首たち>だ。麻生太郎首相(自民党総裁、当時)と鳩山民主党代表(現首相)のスピーチを診断している。
東の結論は、<2人のことばが多くの国民を惹(ひ)きつけたかというと、必ずしもそうではない。2人は国民に通じることばを失っていたといっていい>というものだ。8月18日の公示日、両党首の第一声を中心に分析している。東京・八王子駅前、麻生スピーチは、
「麻生太郎です。暑い中、足をとめていただき……」で始まる。一方、大阪なんば駅前の鳩山は、
「なんばにお運びくださいましたすべての皆さん、……」と呼びかける。
2人の演説はどこが違うのか。東はまず、演説中で使用頻度の多い人称代名詞に着目する。(数字は回数)
▽麻生 我々23、皆さん方9、皆さん5、私5、私ども4。
▽鳩山 皆さん15、私たち7、皆さま方6、あなた方5、皆さま1。
麻生は<我々>が群を抜いている。このうち、話し手(麻生)と聞き手をともに包括するような<我々>は6回だけ。ほとんどが麻生あるいは政府・自民党をさす<我々>だ。さらに、<私>が5回、鳩山はゼロ。麻生は話し手中心のスタイルだった。
鳩山は逆に圧倒的に聞き手中心の語りである。<皆さん>はじめ聴衆をさすことばの合計が27回になった。
次の大きな違いは、「でしょうか」「じゃないでしょうか」「ではありませんか」などの問いかけ形式が、麻生4回、鳩山14回。聞き手中心の鳩山スタイルがさらに鮮明になる。聴衆は自己主張型の麻生より鳩山に好感を持ってもおかしくないのに、そうはならない。なぜか。東はこう分析した。
<鳩山演説に決定的に欠けているのは、自然さ、瞬間的に口から出てくる即興性、ダイナミックさだ。前もって丁寧に準備されたスピーチのように聞こえてしまう。内面からほとばしりでるホンネの演説になっていない>
余談だが、として、東は演説会場で聴衆に交じり、2人と握手した体験も書いている。<麻生は満面の笑みを浮かべ、相手を見ながら、自信満々の固い握手だ。それに対して、鳩山は内気そうに、どこを見ているのかわからないうつろな目をしながら、丁寧だが、力の入らない握手をする。
2人の言語力の違いが、触覚を通じてじかに伝わってくるようで、実に興味深かった>鳩山の苦境にも通じる。(敬称略)
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