「テロリストはハッカーにもなりうるが、ハッカーがテロリストになると恐ろしい」。ウィキリークス事件は2011年の国際的な地政学を大きく変貌させうる。
もしジャーナリストが機密にする情報源をあかしたら、その日から彼、あるいは彼女は情報源を失い失業するだろう。
しかしウィキリークスで公電を暴かれた米国外交官は、なんだか称賛の声が強い。なぜって、ユーモアのセンスがあり、修飾語の使い方がうまく、しかも外交官としてセンスが抜群ではないか、という感想を抱くからだ。ただしウィキリークスがこれまでに暴露した公電の範囲内での話ではあるのだが・・・。
NYタイムズがウィキリークスからの機密情報の連載を突如打ち切ったのは、首謀者ジュリアン・アサンジが逮捕されたからだ。
しかし逮捕に到るまでに米国はスェーデンと英国に圧力をかけ、オバマ政権の存続と民主党の勝利を願っているNYタイムズが、オバマ政権から「米国に不利益になる」との圧力には妥協するのも当然だろう、と考えられる。
これがもし共和党政権下でおきた機密漏洩ならディープスロートも、エルスバーグのペンタゴンペーパーも、NYタイムズは言論の自由、国民の知る権利といって掲載を中断しなかったように(ディープスロートはワシントンポストだったが)、掲載を続行したのではないのか。
反対のケースがバレリエ・プイィム事件だ。
これはバレリエがCIA高官であり、美人であり、その夫ジョセフ・ウィルソン(国務省高官で民主党支持者だった)が核物質をイラクへ輸出した疑惑の調査にニジェールへ行ってウラニウム輸出の証拠無しとしたこととリンクさせて、ついには妻の名前をCIA高官と公表し、バレリエを議会証言させるという機密を暴いたのは誰だったのか。ブッシュ政権ではないか。
▼機密が全て公開されることになれば国家は機能しなくなる
「イラン攻撃を米国が行うとすれば中東諸国は反対しないだろうという衝撃的な米国公電やサルコジが国王のようにふるまう権威主義者という公電がショックというのであれば、いやそれらは既知の事実の範ちゅうにはいり、イランの大統領選挙は与党の不正投票の結果だという公電も、自由世界では殆どの読者が関知していることであり、これらにニュースバリューがあるという認識がアサンジにあったとすればかれは国際政治にナイーブである」(ロジャー・コーヘン)。
機密の暴露は米国外交を低下させ、あるいは停滞させ、国家安全におおきな、見えない損害を運び、名前のでた個人の生命を危険にさらしたという意味でウィクリークスは巨大な、新しいテロである。世界的規模で外交の進捗を阻害したからだ。
「外交や政治に機密はつきものであり、外交の前提であり、これがすべて公開されることになれば国家は機能しなくなる」(バルガス・リョサ元国際ペン会長、今年度ノーベル文学賞受賞作家)。
「テロリストがハッカーにもなりうるが、ハッカーがテロリストになるときが恐るべき事態となりうる。そういう意味でウィキリークス事件は2011年の国際的な地政学を大きく変貌させるだろう」(イアン・ブレマー&パラグ・カンナ両氏のヘラルドトリビューンへの寄稿。12月23日)
杜父魚文庫
6929 ウィクリークスは巨大な、新しいテロ 宮崎正弘
宮崎正弘
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