対立軸を明確にしてきた谷垣財政相らアンチ安倍グループに広がっているのは、九月に安倍内閣が誕生しても、来年の参院選で敗北する、という観測に立った「短期政権論」。自民党員が自民党の敗北を期待(?)するのもおかしな話で、一緒に乗り合わせた泥舟が沈没してしまうことには、思いが至らないらしい。
本末転倒も甚だしいと叱りたいところだが、この短期政権論には一応の根拠がある。年初以来、私がことあるごとに指摘してきたことだが、三点に絞って、もう一度おさらいしてみる。
①来年は亥年。十二年に一度、四月の統一地方選挙と夏の参院選が重なる年となる。亥年の参院選は判で押した様に投票率が低くなり、それが選挙結果に顕著に現れるという法則を発見したのは、仙台で駆けだし記者の時代を一緒におくった朝日新聞の石川真澄氏(故人)だった。1995年の岩波新書「戦後政治史」で参院選と亥年現象と銘打って明らかにした。
選挙予測を過去のデータに大きく依存する手法は偏り過ぎていて、むしろ直前の政治状況に左右されるという私の見解とは異なるのだが、亥年現象があることは認めざるを得ない。低投票率の下で選挙に勝つ戦術を組んだ政党が、有利な戦いとなるのは自明の理である。
亥年現象で自民党が大きく議席を減らしたのは1971年参院選、棄権が自民党を直撃している。しかし次の1983年参院選では、棄権が増え、自民党票が減ったにもかかわらず社会党が敗退している。無党派の棄権が社会党に大きく響いた。亥年現象は自民党に不利に働くとは限らない。
これ以降、自民党は低投票率で選挙に勝つ手法を総選挙や参院選でとってきた。森前首相が2000年総選挙で「無党派層は寝ていてくれればいい」と発言して不評を買ったが自民党の本音でもある。この発言は正確にいえば「まだ(投票態度を)決めていない人が40%ぐらいいる。最後の二日間にどういう投票行動をするか。そのまま、その人たちが関心がないと言って寝ていてくれればいいが、そうもいかないでしょうね」。いずれにしても言わずもがな、の発言であった。
しかし小泉首相は、この手法から脱して積極的に無党派層を取り込む選挙に転じている。小泉路線の継承者となる安倍氏が首相になれば、2007年参院選で投票率が低くなるのは大きなマイナス要因になるとみるべきであろう。加えて市町村合併で、末端で手足となる地方議員が減っていることや造反議員の復党がはかばかしく進んでいないことも気になるところである。
②2007年参院選の改選議員は、2001年参院選で支持率80%を超えた小泉ブームに乗って大量当選している。それだけ自民党の改選議席数が多いので、議席を減らす公算が大である。その歩留まりをどこで押さえるか、守りの選挙にならざるを得ない。
③過去の選挙をみると自民党が総選挙で大勝すると、次の選挙では必ず自民党が議席を減らしている。意識すると、しないとにかかわらず選挙民には絶妙なバランス感覚が働いてきた。昨年の総選挙で自民党が圧勝したことから、参院選で”揺れ戻し現象”がでる可能性がある。
こう並び立てると自民党にとって悲観論一色になるのだが、対する民主党はどうであろうか。党内的には小沢代表を中心にして一致結束の構えをみせているが、小泉ブームのような”小沢ブーム”が広がるに至っていない。むしろ小泉以前の自民党がお家芸であった低投票率の下で手固く議席を積み上げる手法をとるかにみえる。亥年選挙の先手を小沢代表は意識して布石を打っている。
その一方で民主党の地方組織は、まだ脆弱である。党員・サポーター数も秋田、鳥取、島根、山口、宮崎では1000人にも届かない状態。強いといわれてきた北海道、愛知でも伸び悩んでいる。参院選は一人区の勝敗が帰趨を決めるだけに小沢代表に課せられた課題は、地方組織の活性化であろう。
さらに言うなら、小泉人気で奪われた大都市圏の無党派層の票を奪還しないことには、前回参院選で自民党に差をつけた比例代表優位の座も危うくなる。民主党は女性票の獲得で、まだもの足らない点が見受けられる。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」というが、自民党も民主党も己の弱点を克服して、四つ相撲をとる時期が迫っている。自らの弱点に甘い採点を下した方が敗北する参院選だと言って間違いなかろう。「短期政権論」は、その先のことだ。
97 安倍短期政権論の検証 古沢襄
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