米国の首都ワシントンでは中国研究がますます盛んになってきた。中国のダイナミックな動きを追う官民の多数の機関のなかでも研究の深さ、広さ、長さを合わせると、米中経済安保調査委員会がなんといっても筆頭だろう。
米国議会の政策諮問機関として2000年に設置されたこの委員会は民主、共和両党の議員が推薦する12人の専門家が委員となり、毎月2回ほど個別のテーマごとにさらに別個の専門家を招き、報告を受ける。主眼はあくまで中国の動向が米国の国家安全保障にどう影響するか、である。
この委員会が取り組む主要課題のひとつに「中国の主権」がある。主権とは国家が国内の統治や領土の保全から対外的な言動までに有する究極の権限のことである。委員会としては中国が自国の主権をどう認識し体現するかを調べ、米国への意味を考えるのだ。
さて同委員会の一連の報告を読んで、中国の主権の主張は国際的にはまったく異端、内容的には激烈な自国中心の姿勢であることに改めて感嘆させられた。
中国が国連の海洋法条約に加わりながらも、そこで規定された排他的経済水域(EEZ)の沿岸から200カイリという線引きには従わず、自国の経済主権が及ぶ海域として大陸棚の延長という異色の概念を掲げることはすでに広く知られている。
他の諸国が自国のEEZ上空はみな国際的空域とみなすのに対し、中国は自国の主権が及ぶ領空とみなす。
さらに中国政府は06年には国内法に基づく宣言により海洋法条約が紛争解決について明記した強制的手続きは受け入れず、紛争について国際海洋法裁判所や国際司法裁判所への訴えへの関与も拒んだ。
国際裁判所が下した決定も一切、受け入れないという方針を明確にした。自国の主権の前には国際条約も国際裁判所も意味なしという国家主権オールマイティーなのである。
この姿勢は宇宙にまで及ぶ。中国は国連の宇宙条約に加わってはいても、その趣旨に反して、自国の領空は無限に上方へ伸び、その上の宇宙は自国の主権下にあるという解釈を打ち出してきた。
政府として法律で明記はしていないが、政府の意向を受けた中国人専門家たちが外国向けの論文などで「一定地域の地上、上空、宇宙は切り離し不可能な総合体である」(人民解放軍の戦略家、蔡風珍将軍)と主張し始めたのだ。最近の中国の主権拡大の国際「法規戦」の一環でもある。
中国の主権へのこうした姿勢の背景について米中経済安保調査委員会の報告は中国が19世紀から欧米諸国や日本に主権を侵害され、屈辱を味わったという意識がいまも強いことを指摘する。
過去の恥を消し、栄光を回復するためにも主権を最大限に主張し、拡大し、その一方、国際規則の適用は結局は外国勢力の収奪だとみなす被害者意識が消えないのだともいう。
さて中国の国家主権へのこの断固たる身構えと、日本の鳩山由紀夫首相が中国に向かって唱えた東アジア共同体の友愛の勧めとを並べてみると、あまりにも断絶がある。
鳩山首相の構想は実態がなおわからない部分が多いが、欧州連合(EU)を例に引き、「東アジア諸国の集団的安全保障の制度」とまで述べるのだから、各国の主権のある程度の譲り合いも前提とするのだろう。
そうなると、中国が完全な変身でもしない限り、東アジア共同体の構想は幻想に終わるようにみえてくる。(産経)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
4116 中国の主権と共同体の断絶 古森義久
古森義久
コメント