7066 軍の暴走を制御できない胡錦濤の訪米 宮崎正弘

胡錦濤主席、訪米前の言いたい放題は国内強硬派向けだろう。「ドル基軸システムは過去の産物」「世界経済のドル支配は死んだ」などと豪語。
胡錦濤は2011年1月18日から米国を公式訪問、ホワイトハウスでは二回の晩餐会が行われる。
米国は両国の関係をG2と位置づけ、ささくれだつ関係の改善に躍起だが、中国側からは誠意ある回答も準備も見いだせず、胡錦濤が「子供の使い」になる懼れがあるとNYタイムズが示唆した(18日付け)。
第一に先週ゲーツ国防長官が訪中のタイミングを狙って、軍はステルス爆撃機の試験飛行をこれみよがしに公開し、米国に牙を向けた。
ところが、胡錦濤は、この軍の動きを知らなかった。胡はキラー衛星打ち上げの際にも具体的日時を知らされていなく、赤恥をかかされた過去があるが、尖閣に於ける軍の強硬な突出も中央政府の意志決定と大きな齟齬が存在している。
スコウクラフト元大統領安全保障担当補佐官が嘆くように「軍は開放路線に参画していない」のだ。 
第二にWTO違反のレアアース輸出禁止も巨大国有企業の判断であり、中央政府の意向に挑戦している。「知的財産権の保護」を強く要求する西側に対しても中国はつべこべと理由をつけるだけで抜本的改善はなく、ひたすら技術の盗取を続けている。
第三はウィキリークスの指摘にもあったように胡錦濤は前任者の江沢民ほど権力を掌握しておらず、とりわけ軍の暴走を制御できない弱い立場にあることが、一連の動きから暴露される結果となった。
「軍は独自の論理で動いている」というのがどうやらオバマ政権の現状総括である。NYタイムズは胡を「共産党独裁政治の過去のなかで最も弱い指導者」と断言した(同紙、18日付け、The Weakist Leader of the Communist Era)。
第四に次の数年、権力が交替し、中国は混沌の移行期に入るが、第六世代は革命の修羅場を経験していない上、党内闘争にも血路を開く人物が不在。リーダーシップはますます弱まり、中央委員会で決議は円滑にまとまりにくくなり、巨大国有企業、官僚トップ、軍と党との軋轢はいや増すだろう。
実際にソマリア、スーダン、アフガニスタンなどでの利権獲得や大規模な投資は国有企業の独断が作用し、中央政府との間に整合性を見いだしにくいプロジェクトが散見される。
「中国は政策の継続性を維持する能力を一段と低下させるだろう」(ガイトナー財務長官、1月13日、ジョンズホプキンズ大学での講演)。
となると訪米成果は望めない。党内のコンセンサスを得ないまま、胡錦濤は以前に決めた日程を消化するだけの目的で訪米せざるを得ず、米側の要求した北朝鮮への政治介入、人民元切り上げなどに関して一切の回答を用意できないばかりか、軍が露骨に対米妥協に反対し、さらに党内では強硬派が党内民主化の動きを牽制している。
そしてウォールストリートジャーナルとワシントンポストの事前の質問に書面で回答した胡錦濤は、人民元切り上げへの即答を避け、抽象的な文言でお茶を濁した。08年以来、胡は米国の新聞インタビューには応じたことがなかった。
▼不都合なことには一切答えず大言壮語をならべた理由とは?
またノーベル平和賞の劉暁波の人権問題や、サイバー攻撃の実態と脅威に関しての言及はなく、一切無言。太平洋の於ける軍事力突出についても回答はなかった。
ガイトナー財務長官らが執拗に要求している人民元切り上げ問題は「インフレ退治にも即効薬」とのアドバイスを無視し、ただ「米中の相互理解は深まっている」とすっとぼけた回答を示した。
そして胡はこう言い放ったのだ。「ドル基軸という国際通貨システムは過去の産物であり、ドル支配体制は死んだ」
外貨準備高2兆8500億ドル、GDP世界第二位の自信を背景に、過激な姿勢を誇示して見せたのは、おそらくは国内に燻るアンチ胡錦濤グループ、軍、長老たちの頑迷保守などへ対するジェスチャーだろう。

   
杜父魚文庫

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