8348 計算づくめの中国礼賛、楽観的未来論は色あせて 宮崎正弘

ソロスはユーロ債、中国の危機を読んで投資活動停止中。
中国経済に関して、景気の良いニュースが続いた。スイスのプライベート・バンク「ジュリアス・ベア」社とCLSAが実施したアジア十ケ国の富裕層調査が8月31日に発表され、「2015年までにアジア十ケ国で億万長者は280万人に増えるが、そのうちの半分、140万人が中国人だろう」と、華やかなお世辞なのか、大胆な予測を発表した。
中国の国富ファンド「CIC」は、中国人民銀行が外貨準備高から資金を回して設立した巨大ファンドだが、2010年の資産運用がはやくも4096億ドル、利益は516億ドルという好成績をあげ、近く第二ファンド(海外投資専用ファンド)を設立する動きも顕在化しているとブルームバーグが伝えている(9月1日)。
なにしろ中国の外貨準備は世界一、3兆1000億ドル(このうち米国債権保有額は1兆2000億ドル内外、日本国債は30兆円規模)。カネはうなるようにある、かに見える。
中国の社債発行額も、東洋一となり(東アジア全体で430兆円規模)、株式市場の時価総額は日本より大きく、もちろん東洋一。
中国の四大国有銀行の2011年上半期の利益が4兆716円(中国工商銀行=1兆3152億円、中国建設銀行=1兆1154億円、中国農業銀行=8000億円、中国銀行=8416億円)。
▲中国の銀行経営の中身がそんなに卓越した成績である筈がないが?
中国の銀行の自己資本率は新しい内規で、10・5%とバーゼルの基準(BIS)より高いが、さらに2013年までに11・5%に高めるよう「中国銀行業監督管理委員会」(=SASAC)は要求している。
また同委員会によれば、四大銀行の不良債権率は1%-1・6%と報告されているそうな(人民日報、日本語版、8月29日)。いずれも首をかしげたくなる数字である。
 
中国の金融制度を、西側の「銀行」基準と比較すると、中国の銀行を「銀行」と言って良いか、どうかは別の問題である。
率直に言って渤海湾のヘドロのように中で環流しているだけ、不良債権を隠すためにたらい回し、というのが実態だが、この詳細は別の機会に述べる。
それはともかく中国の金融、銀行制度は劣悪かつ穴だらけ。ところが預金者の監視だけは十二分になされている。つまり銀行預金は当局によって完全に監視されているのである。インターネット、携帯電話までが傍聴、盗聴されているように。
中国人民銀行が9月1日に公表した数字に寄れば、個人預金7億9000万人分と、法人1790万社のデータを管理し、信用情報システムが収録している。
中国人民銀行というのは、日本でいえば日銀、米国ならFRBに相当する中央銀行だが、西側の中央銀行とはまったく異なり、ここも党が支配する。
監視強化は銀行、証券で個人預金が急増し、同時にクレジット・カード、住宅ローン、自動車ローンなどによる個人消費が増えたためである。
また連銀カードようにプリペイドカードの売れ行きも鰻登りとなって、明るい展望、未来の中国はさらに発展という予測が一部に横溢してきた。
成長の持続に疑問符を投げかけることを、立場上、悲観論をのべることがと躊躇いがちな世界銀行だが、ゼーリック総裁は「中国の一人あたりのGDPが2030年までに16000ドルになるという可能性は妥当である」と楽天論から説き起こし、内需拡大と貯蓄抑制、消費促進などの改善があれば、高度成長の維持が不可能ということもないだろう」という。
だが、ゼーリックとて、中国経済の将来への展望で悲観論も適当に混ぜ合わせて「構造改革に踏み切れなければ成長を悪化させる。改革のペースを速めよ」とする論文をフィナンシャルタイムズに寄稿した(9月2日)
これはあまりにも楽観的ではないだろうか。もっともゼーリックは中国を礼賛した親中派ロビィのひとりであるが・・・。
冷や水を浴びせたのは世界一の投機家ジョージ・ソロスだった。「すでにインフレを抑制するチャンスを中国は失い、賃金の上昇が物価上昇を牽引するインフレであり、経済成長はそのダイナミズムを逸している」と酷評。
中国国債レートを格下げしたフィッチ(世界有数の格付け機関のひとつ)は、「貸し出し急増と不動産急騰のため、2013年までに銀行危機に陥る可能性が60%に達した」と分析した。
▲ジョージ・ソロスは「次」とどのようにみているか?
さてソロスの世界経済の見通しはいかなるものなのか?米国債権の上限枠でオバマ政権が窮地にたち、ユーロ危機が叫ばれ、ソロスは「ギリシアとポルトガルがユーロから離脱するのが最善と説いた(ドイツ『シュピーゲル』とのインタビュー)。
かれはこういう。「ユーロ加盟国のなかで、財政赤字の国々と黒字の国々とが同じ条件で借り換えが出来るシステムが必要であり、この実現には、全加盟国が共同で保証する『ユーロ共通債』が最良の手だて。またユーロ離脱メカニズムがない現状では、或国が合意した条件の下にとどまれなくなった場合(げんじつにギリシア、ポルトガルはとどまれない)、破滅的な結末を迎える可能性があるだろう」(フィナンシャルタイムズへの寄稿、8月15日)。
さて2011年7月時点で、所謂「ソロスファンド」は規模が255億ドルに縮小、しかもこのうちの75%が現金であることが分かった。つまり積極的投資を手控えていたのだ。
ブルームバーグの報道に寄れば、ソロスファンドの2010年の成績はマイナス6%を記録し、ソロスは「市場は霧のように不透明、まったく不可解であり投資を控える」としていた。
事実、ソロスは株式、債権、通貨への投資をほぼ中断し、さらに驚きは出資者にカネを返し、余生は自分のファンドだけを運営すると、事実上の引退を宣言したのである。
あのソロスさえ先行き不透明と呼んで、あらゆる投資に突如消極的となっていた。直前にはゴールド投資信託から手を引きたことも報道された。
 
かつてソロスの弟子だったジム・ロジャーズは「雨の降る農地に投資しよう」と言い出して商品相場の本格化を予測したが、ソロスも南米、豪州の「雨の降る農地」を勝っている「アデコアグロ」の23・4%を保有している。
杜父魚文庫

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