米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイをめぐる論議でけげんに思ってきました。この輸送機がいまなぜ日本に拠点をおくことが必要とみなされるのか。日本の安全保障面からの議論が皆無だったからです。日本での議論はもっぱら日本国内での安全問題、環境問題だけに絞られてきました。
そんなところで、やっとまともな主張にぶつかりました。
■【宮家邦彦のWorld Watch】「不思議の国」のオスプレイ
先週在京大使館の外交官たちと話す機会が何度かあった。米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイ沖縄配備に関する彼らの見方は興味深かった。
公の場では沈黙を守るものの、内々本音を聞くと、「なぜ地方政府に在日米軍装備・配置の拒否権を与えるのか不思議」と訝(いぶか)る声が少なくない。
やはり第三者には「不思議の国」に映るのだろうか。言われてみれば、その通りかもしれない。安全保障意識の高い大使館、外交官ほどそう訝る傾向が強かった。見ている人は見ている。ちなみに、彼らの中に米国の外交官は一人もいない。
個人的には1980年代末から足かけ6年、東京とワシントンで日米地位協定の運用に携わった経験がある。その間、何度か在日米軍の事件・事故や戦闘機・艦船の配備問題に直接関与した。そんな筆者のオスプレイ配備問題に対する思いは複雑だ。
誤解を恐れず、まずは法律論を含む事実関係を整理しておこう。以下は筆者が10年近い日米安保業務の経験から体得した基本中の基本だ。オスプレイ配備への賛否に関わらず、全ての関係者にとって当面変わることのない現実でもある。
●日米安保条約上、この種の装備品配備は事前協議の対象とならず、日本政府・地方自治体にその配備を「拒否」する権利はない
●オスプレイに限らず、米軍で新しい兵器・装備品に構造上の危険があれば、その運用は直ちに、かつ原因が取り除かれるまで、必ず中止される
●逆に、事故が起きた装備品であっても、構造上の危険がなければ、その運用は最終調査報告書作成前でも、再開される
●詳細な報告書作成には最低数カ月の時間がかかる。また、いかなる報告書が出たとしても、誰も装備品の「安全」に百パーセントの「確信」など持つことはできない
以上を前提に、オスプレイについて考えてみよう。沖縄では海兵隊用オスプレイ(MV22)の普天間配備計画は以前から知られており、決して突然の決定ではない。また、海兵隊用MV22の事故率は他の同種、または異種の航空機に比べても決して高くないという。
駐留する同盟国軍隊の新兵器・装備の配備については抑止力向上の有無が最も重要だ。「安全に対する確信」などという条件を付し自治体首長に事実上の「拒否権」を与えれば、同盟はいずれ衰退し、いざというときに機能しなくなる。
反対派からは「法律論、あるべき論はもういい、お前は米国の言いなりか」と批判されるだろうが、問題の本質は外交よりも内政だ。新型装備品に対する地元の不安、政府対応への不満は理解できる。ただ、事故を心配する気持ちは日本人も米軍人も変わらない。
6月14日の藤村修官房長官の発言は言葉足らずだった。「地元に説明に行くのに説明材料が足りない」、「詳細がわからない限り、新たな行動を起こさない」などといえば、地元は「事故原因が分からない限り、配備手続きを先送りする」と誤解し、より強硬になるだけだ。
繰り返すが、この種の事故調査では当面、誰もが納得する新事実が出る可能性は低い。苦し紛れの浅知恵で説得責任を米国に転嫁しても、同盟は風化するだけだ。いくら丁寧に説明しても、「地元説得に自信がない」ような人に反対派の説得などできるはずがない。
見識ある民間専門家を防衛大臣に迎えた以上、野田佳彦首相と民主党国会議員は内政面で新大臣を全面的に支援すべきだ。それは森本敏氏個人を助けるためではない。日本という国家が同盟国に対する最低限の義務を果たすためである。
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【プロフィル】宮家邦彦=昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフ リカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。安倍内閣では、首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
杜父魚文庫
10076 オスプレイ機がなぜ日本に必要か 古森義久
古森義久
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