13671 書評『秘録・日本国防軍クーデター計画』  宮崎正弘

本当にあったのか? 戦後のワンマン吉田首相暗殺計画。クーデター計画を練り上げたのは嘗ての参謀本部の逸材たちだった。
<<阿羅健一『秘録・日本国防軍クーデター計画』(講談社)>>
ノモンハン事件を「敗北」と総括してきた左翼の歴史家は、そのときに作戦を立案した辻政信と服部卓四郎を「愚将」と罵倒した。ところがソ連崩壊後、夥しい機密書類がモスクワからでてきた。ノモンハンは日本が勝っていたか、すくなくとも辛勝したことが、いまの歴史で常識となっている。
辻政信は戦後パージが解けるや、『潜行三千里』ほかのベストセラーを書いて戦後の人気者となり衆議院議員、参議院議員を務めた。参議院議員の現職中、国会に四十日間の休暇届を出し忽然としてラオスへ赴き、僧侶に変装してジャール平原で消息を絶った。パテトラオに処刑されたらしいとされた。
しかし、辻は「死に場所を探していたのではないか」と本書は示唆する。
理由は親友だった服部卓四郎の死である。服部は戦後、『大東亜戦争全史』を編纂した中心人物であり、いちどは参議院に出馬準備も整えたことがあった。
この克明な記録は歴史家の仕事でもあり、占領下の作業だった。ともかく辻政信と服部卓四郎は毀誉褒貶が激しい。
しかし服部の生涯には「謎」の部分が多く、とくにGHQとの関係や、GHQに出入りした女性らとの関係もすっきりしない所があるとされていた。
松本清張も、この謎に挑もうとして文春編集部に資料を集めさせていた。編集部員は、じっさいにビエンチャンへ飛んだ。資料集めが佳境となり、いざ書き始めようとしたとき、松本は脳溢血で仆れた。
とりわけ最大の謎は服部、辻、そして背後に児玉誉士夫らがいたとされた、クーデター計画である。警察予備隊、保安隊などと微温的な占領政策の変遷の下、服部らは本当の軍隊を創設しなければ主権国家の回復はならず、と関係者をまわっていた。強引にこの計画をつぶしたのは吉田茂だった。
「国防軍計画は吉田首相によって阻止され、日本は独立を果たしたが、国防はないがしろにされた。このため、服部だけでなく、旧軍人のあいだにも、吉田首相に対する反感が相当募ることになった。こうした昭和二十七年十月、服部たちのクーデター計画が米軍の情報網にひっかかった。三ヶ月前の七月、服部たちは吉田首相を暗殺して、鳩山一郎と首相にそえる計画を立てたというのである。それに対して辻政信が『今はクーデターを起こす時ではない』と説得、服部たちは思いとどまった、と情報は具体的でもあった」(本書391p)。
噂だけが一人歩きしたのが真相で、しかも出所を辿ると、中国の偽情報に行き着くとされた。この戦後最大の謎に本書は挑んだ。
杜父魚文庫

コメント

  1. よび子 より:

    闇米を食べなければ生きていけなかったころ、秘かに集まり、国防軍を研究していた人がいたことには頭が下がります。彼らにとっては、家族よりも、国家のことが優先していたのです。
    そのことを思えば、日本人として誇りが持てるし、いま憲法改正に向かうことはいともたやすいことではないでしょうか。

  2. あけぼの より:

    服部卓四郎はなかなかの人物です。辻政信を使ったのは度量が広かったから。国防軍の創設に邁進したのも、国家のことが優先したから。敗戦となり、戦前のことがすべて否定され、服部も否定された。そういう論調がすでに半世紀以上にわたっている。服部をどう見るか、それは占領軍史観に毒されているかどうかの基準となるでしょう。

  3. jellyfish より:

    この本の圧巻は、服部卓四郎が秘かに国防軍の準備をして、いまや創設されるというとき、吉田茂首相によって潰される部分ではないでしょうか。吉田首相が服部卓四郎を使用すれば、いまの日本はもっとまともな国になっていたでしょう。ついつい、吉田首相が潰す場面を何度も読んで、残念がっています。昨年、NHKで「負けて、勝つ」というドラマが流れましたが、そこでは服部が吉田を脅しに行き、簡単に吉田から拒絶されるシーンがありましたが、それがフィクションであることは「秘録・日本国防軍クーデター計画」で知りました。世間に流れていることは、あまりにも事実と違いますね。

  4. HataYuki より:

    辻政信がどうのとか、クーデター計画がどうのとか、いろいろ読後の感想はあるでしょうが、著者が書きたかったのは、日本で国防軍が秘かに計画されていたということではないでしょうか。私はこの本で初めて知りました。
    それと同時に、著者が書こうとしていたのは、吉田茂首相が勘違いしていたため、服部たちを拒否した、ということでもあると思います。服部たちをきちんと評価していれば、服部たちを受け入れて、その段階で国防軍の基礎ができていたはずです。
    これまで知られていない事実が明らかにされ、素晴らしい本だと私は思います。

タイトルとURLをコピーしました