オバマ大統領のシリアに対する対応は二転三転、優柔不断、支離滅裂、右往左往という感じでした。このことはオバマ大統領がそもそも確固たる対外政策を持っていないことから始まっています。そんな点を田久保忠衛氏がびしりと書いています。
私が最近の書『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(幻冬舎新書)で私的した諸点もこの田久保論文で提起されています。いまの「オバマのアメリカ」という特殊な状況を理解するのに適切な論文だと思います。
■【正論】杏林大学名誉教授・田久保忠衛 米指導力損なう「内向きオバマ」
日本が最も信頼する同盟国、米国のオバマ大統領の言動には言い知れぬ不安を感じる。理由は十分に理解できるのだが、紛争に巻き込まれて軍事力を行使したくないとの姿勢があまりにも露骨に表れている。
日本には未だに米国の戦争に巻き込まれたくないとの「巻き込まれ論」があるが、同盟国や友好国絡みの戦争は御免だと考えているのは米国だ。軍事力を世界に展開するのを「外向き」、引き揚げるのを「内向き」と仮に表現するならば、オバマ政権は発足時から内向きに舵(かじ)を切っているので、早晩これが同盟関係などに微妙な影響を及ぼすと考える。
≪ノックアウトなしの拳闘だ≫
私はシリアに対する米国の立場にはこの上なく同情している。11万人に上る無辜(むこ)の民が殺された内戦で、大量殺戮(さつりく)兵器の毒ガスを使った アサド政権を放置すれば、民主、法治、人権を唱道してきた国として世界の信頼はなくなる。さりとて政権を打倒すれば、アルカーイダなど国際テロリストを含むとされる反政府勢力の手に危険な兵器が渡る。過激派の標的になってきた米国は自衛のため新たな戦争に突入せざるを得ない。
オバマ大統領が議会の承認を取り付けられるかどうか現時点では不明だが、地上軍は投入せず攻撃の範囲も期間も限定する条件付きの攻撃とは、相手を絶対にノックアウトしてはいけないボクシングと同じではないか。攻撃の決定を下すまでの大統領の動きは優柔不断と言わざるを得ない。
(1)昨年8月20 日、レッドライン(越えてはならない一線)は化学兵器の移動や使用を目の当たりにしたときと述べた。
(2)今年3月半ばの戦闘で政府軍が少量のサリンを使用したことは米政府も確認した。
(3)大統領は6月13日、反体制派に小火器と弾薬の支援をすると発表した。
(4)8月21日、ダマスカス郊外で子供を含む 1429人が毒ガスで殺された(ケリー国務長官)。
(5)8月30日に大統領はいきなり議会の承認を得たうえで攻撃を決定すると発表した-と時系列的に追っ てくると、軍事力行使に大統領が懊悩(おうのう)している様が分かろう。
≪一握りの側近で最終決定≫
英国は攻撃に加わらない。中露は反対する。9月6日、ロシア・サンクトペテルブルクでの主要20カ国(G20)首脳宣言は、シリア問題に一切触れられなかったほど首脳会 議の意見が割れた、といった状況下では、オバマ氏自身がブッシュ前大統領を批判した「単独行動主義」になってしまう。
攻撃が実施されようとされまいと、米国は明らかに腰が引けている。理由の1つはオバマ政権のリベラル体質にある。攻撃の最終決定が人間関係の近い少人数で行われている点は、米紙でも「兄弟集団」(バンド・オブ・ブラザーズ)と冷やかされてきた。
第2は世論の動向だ。9月3日発表のワシントン・ポスト紙とABCテレビの世論調査結果は、米軍のシリア攻撃に反対59%、賛成36%だった。アフガニス タンとイラクへの派兵の後遺症にほかならない。私は、当時の状況におけるブッシュ氏の判断を疑っていないが、2つの戦争の費用2兆ドル(約200兆円)、 死者6600人は米市民にとり悪夢以外の何物でもない。
第3に、巨額な赤字を抱えた財政のシワ寄せが軍事費に及んでいる事実だ。シリア攻撃に使用が予想されている巡航ミサイル「トマホーク」は、一発あたり150万ドル(約1億5000万円)、作戦任務に入った1空母機動部隊には1週間で 4000万ドルかかる(グリナート米海軍作戦部長)。
≪超大国の威信かかるシリア≫
米国は衰退しているなどと早とち りしてはならない。中国やブラジルなどの台頭で相対的衰退はあるかもしれないが、経済の規模、軍事力、技術力、情報力などで依然、群を抜いているのは同盟国、米国なのである。
日本、韓国、中国、ロシアが抱えている少子高齢化の深刻さはないし、シェールオイル革命で勢いを増す可能性も多い。心配なのはホワイ トハウスの指導力だ。
中国を刺激するのを極度に控え、北朝鮮への対応は示さず、イランの核開発計画には経済制裁以外には手が出せないし、エジプトの政変でもクーデターかどうかの判断を下せない。これだけ時間を長引かせたうえでシリアを攻撃してもしなくても米国の威信はぐらつく。
解せないのは、歴代政権でも特に米国を重視する安倍晋三政権の「外向き」なところに、なぜ米国が目を向けないのかだ。中韓と一緒に安倍首相を「ナショナリスト」にでっち上げての陰湿な批判が、なお米国の一部から聞こえてくる。
「強い日本」との同盟強化はアジア全体の国際秩序の安全弁にならないのか。不可解にも、憲法論議をことさら避ける空気は日本の政府・与党にもあるやに見受ける。
日本人全体が戦後を脱却する気持ちになり米国もそれを理解するには、普段から議論を深めておかねばならない。東京オリンピックも日本に幸いしている。戦後を卒業する神風が吹いてきた。(たくぼ ただえ)
杜父魚文庫
13973 オバマのアメリカは迷走する 古森義久
古森義久
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