■「国際金融のトリレンマ」に直面 構造調整には時間が…
◇ロイター・ニュースエディター田巻一彦氏の分析
世界経済の「激震」につながりかねない中国経済の減速と調整は、長期化する可能性が高まっている。「チャイナリスク」が長期間くすぶり続けることになれば、世界経済の下押し効果が働き続け、量的緩和を続ける日欧に対する追加緩和圧力となるばかりでなく、米金融政策の動向にも大きな影響を与えそうだ。
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8月12日に発表された7月の中国電力生産は、工業用需要の弱さを反映して前年同月比マイナス2%。財新/マークイットが今月1日に発表した8月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は、7月の47.8からさらに低下して47.3となり、約6年半ぶりの低水準。
8月8日発表の7月貿易統計では、輸入が前年同月比マイナス8.1%となった。輸出も同マイナス8.3%と落ち込んでいる。
中国経済の減速が何を起点に起きているのか-。私は、2008年9月のリーマン・ショック後、需要の大幅な落ち込みを回避するために打ち出した4兆元の景気対策によって、生産設備が大幅に増強され、供給過剰体制が出来上がったことが、今日の中国経済の低迷を生み出していると考える。
中国政府が8月に打ち出した元切り下げは、輸出を回復させることで、過剰な在庫を整理する方向で打開しようとしたと考えることができる。
しかし、急激な元切り下げを見越したマーケットはショックを起こし、その後の元相場は、1ドル=6.3元後半でコントロールされているように見える。
中国人民銀行は8月25日、利下げと預金準備率の引き下げを決めた。ドル/元相場をコントロールしながら、米利上げを見込んだドル高が進むと、中国国内で引き締め効果が顕在化するからだ。
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また、2日には全ての外為デリバティブの買いに準備を義務付けるなどの事実上の元売り規制を発表。資本移動の自由を規制する方向に舵を切り替えた。
この政策対応のドタバタは「国際金融のトリレンマ」という問題に、中国政策当局も直面した結果とみるのが自然ではないか。
「国際金融のトリレンマ」とは、(1)為替相場の安定(固定相場制など)(2)独立した金融政策(3)自由な資本移動-の3つが同時には実現できないということを指す。
元の切り下げショックを見て、目立った切り下げを断念し、金融緩和を米連邦準備制度理事会(FRB)とは関係なく実行した結果、資本移動の自由を規制せざるを得なくなった、という理解だ。
市場で期待される大規模な財政出動は、過剰生産整備を再び増加させかねず、それは上記の対応に水を差すことになる。
したがって中国経済の急回復は、かなりの期間見込めず、低い成長率の中国経済が継続することになる可能性が高まる。本来なら、過剰設備を早く除却すべきだ。しかし、大量の「出血」は、経済だけでなく、政治的なショックを発生させかねない。中国の政策当局は「微温的」な対応を選択するのだろう。
時間をかけてゆっくりと対応するのであれば、そのプロセスは「失われた20年」を経験した日本と似てくることになるのではないか。
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田巻一彦=(たまき・かずひこ)ロイターニュースエディター 慶大卒。毎日新聞経済部を経てロイター副編集長、コラムニストからニュースエディター。55歳。東京都出身。(産経)
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