米中の蜜月時代は軍事方面にも飛び火した気配がある。四川省大地震救援の人民解放軍は国民の人気を取り戻した?
一種異様ともいえる米国の前向きな中国人民解放軍への評価がでている。
しかも書いたのはジム・マルビナン(ワシントンで中国軍事専門家。フーバー研究所フェロー)。マルビナンと言えば世界的なチャイナ・ウォッチャーとして知られる上、かれが寄稿したのはフーガー研究所の機関誌である。
フーバー研究所は反共、反ソ連のシンクタンクであり、米国有数の保守思想の政策提言集団であり、しかもライス国務長官の出身母体。日本からも故片岡鉄哉教授や植草一秀氏が一時期、席をおいた。共産主義研究でもっとも優れ、旧ソ連にもなかったレーニン『赤旗創刊号』も揃っていた。
マルビナンは米軍と中国人民解放軍の緊密な連携を高く評価した。
かれの書いたレポート「四川省大地震と人民解放軍」(フーバー研究所発行『チャイナ・リーダーシップ・モニター』、第二十五号』)の結論部分はこうだ。
「人民解放軍は胡錦濤主席の指導の下、陳丙徳参謀総長が指揮を執り、軍の団結を尊んで、危機管理に臨み、救援活動を通じて89年天安門事件いらい失墜していた軍の人気を回復せしめた。
また四川省地震以後の米中軍事協力は特筆すべきであり、馬暁天中将とPACOM(アジア太平洋司令部)のキーティング司令官との電話による緊密な連絡により、成都に米軍輸送機が適切な物資を運び、そこにはゲーツ国防長官も同道した」。
実際には旧ソ連型動員態勢と整合性のなさで人民解放軍の展開は被災地で決して評判をとったわけでもなく核兵器貯蔵庫や生産設備周辺での機密行動は一切明らかにされず、謎が多い。
だから他の専門筋は異なった分析をする。
「とりわけ驚いたのは人民解放軍が旧来の人海戦術の頭で被災救助に取り組んでおり、大型ヘリコプター不足などという装備の話だけではなく戦闘訓練はあっても救援の訓練を受けておらず、瓦礫の山を取り除く削岩機、開削機もなく、発電機もすくなく、震源地の文川に空軍の派遣は44時間もかかった」(NYタイムズにコメントしたデニス・ブラスコ前北京駐在武官)。
▼データからみた場合の凄さ
しかしマルビナンは「公式の報道から統計的に集計し、情報を収集した結果」として、次のように総括する。
「四川省地震直後、わずか十四分後に昆明の部隊に発動命令が出された。郭伯雄(軍事委員会副主任)と葛振峰(副参謀総長)が指揮をとって、成都軍管区と済南軍管区からはただちに空軍が出動した。陸軍空挺団にも出動命令が出た。
作戦は三つに区別され、秩序回復に役立ち、大いなる出動効果を挙げた。
92回の特別鉄道輸送が取られ、11万台の軍用車両とクレーン、通信機材、発電機が携行された。医療ならびに物資運搬は軍隊のなかに115チームが編成され、救援物資・食料は78万トンが運ばれ、空中からも307トンの物資が運ばれた」。
マルビナンの指摘を俟つまでもなく、今回の災害出動は人民解放軍の危機に対処できる能力、その迅速性、機動性を推し計かるまたとない機械ともなった。
救援の総括部門は臨時に「国務院抗震救災総指揮部」に置かれ温家宝首相と李克強が現場指揮を執った。
作戦は九つの部門が分かれた。
(1)緊急マネージメントと救済(成都軍管区)
(2)ライフラインの確保
(3)地震のモニター
(4)衛生、防疫
(5)宣伝
(6)生産復興
(7)安全の確保
(8)水
(9)秩序の回復
これらのうちの六つの部門を軍が担当し、総指揮は陳丙徳参謀総長が担った。
人民解放軍は発生直後、5月15日、5月17日と会合を重ね、胡錦濤総書記が現場に現れて兵士を激励したことは、精神的な励みとなったと人民解放軍は自らを評価している。
「軍のイメージの向上は98年大洪水時の出動と果敢な救済活動ならびに2008年二月の華南大雪災害出動に次いで、高い評価を得た」(マルビナン前掲報告)。
「じつは中国はそれ自体も15の偵察衛星を被災地撮影に集中させたほか、米国防総省に依頼して情報の提供を要請した」(NYタイムズ、7月2日付け)。
米中の軍事的蜜月が、これらの報告の行間に詰まっている。米中の再結託はひそかに着実に始まっているのではないのか。
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2017 米中の軍事的蜜月? 宮崎正弘
宮崎正弘
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