14473 書評「トップシークレット・アメリカ」   宮崎正弘

■これほどのアイロニーがあろうか、と安全保障の根幹を質す。機密が増えて、機密漏洩も増えていく矛盾をかかえるアメリカ政治の愚。
ディナ・プリースト他『トップシークレット・アメリカ』(草思社)
9・11テロ事件に遭遇した米国は決然として、「対テロ戦争」を開始し、国家安全局を創設した。この機構は全米すべての情報機関を統合する組織になるふれこみだった。
かくしてワシントンの周辺には新しく33のビルディングが建築され、情報関連の政府機関とその下請け企業が入居した。
十年後、オサマ・ビン・ラディンを米特殊部隊がパキスタンの隠れ家を急襲して殺害した。けれどもアフガニスタンにおけるタリバンとの戦争はやまず、まもなく米国は『逃げて』帰るだろう。
国家安全局は、既存の組織(CIA、FBI、DIAなど)を統轄して君臨することができず、形骸としての上部構造になりさがり、歴代長官は約束されて権限がないということに気がついて、ばかばかしくなって辞任する。
膨大な予算と天文学的資金を注ぎ込んで、トップシークレット・アメリカが確立され、その壮大なアイロニーは、機密情報がぼろぼろと、次々と外国やマスコミへ漏洩してゆく悲しむべき現実である。
機密情報が守備できないという意味は国家安全保障の基盤が腐食している現実を表す。
ワシントンポストの辣腕記者ディナ・プリースト(女性)は、情報にくわしい専門家の協力を得て、この無謀な情報の世界に奥の闇に挑んだ。

なにしろ1200をこえる政府の情報関連組織に25万人の従業員をかかえ、政府から業務を委託された民間業者をくわえると、じつに85万人ものアメリカ人が機密情報に接しているのである。コントロールできる組織が、筒抜け状況になって機密の保護ができないという現実は驚くべき矛盾だ。
著者が指摘する。
「政府はテロやインテリジェンスのこととなると、あらゆることを秘密にしてしまおうと疲れも見せずに努力しているが、彼らがそんなことをしている間に、フラッシュ・モブや、フェイスブック仲間や、ファイル共有や、ユーチューブ・インテリジャンスや、ブログやネットメディアや、その他さまざまの、新しい、さらに幅広い文化が、今日の何でもありの時代に洪水のように押し寄せいてきている」(322p)。
まさに中国と同じである。
機密は漏れ、欧米のメディアが北京中南海の奥の院で展開されている暗闘を、中国人より早くすっぱ抜く。温家宝一家の不正蓄財も克明に暴いたのはニューヨークタイムズであったように、そしてネット監視団200万人が、中国の別の世論形成の場のネットへ政府よりの投稿をおこない、世論を主導しようとしているが、なんとネットユーザーの方はちょっとでも政府支持や政府寄りの見解には耳を傾けず、「あ、これはやらせの書き込み」と識別してしまう。

まさに米国のトップシークレットのネガフィルムが独裁国家中国のインテリじぇンスの世界である。
すなわち「トップシークレット・アメリカの、秘密への強迫観念的な依存は、かえってアメリカという国を危うくしている」。
あまつさえ「非効率」という問題が浮上している。
「(機密を扱う政府機関の)管理職の人件費がかかりすぎていることについては、高給を取る官僚つまり(軍隊の)背広組も将官が多すぎる」(中略)「巨大なピラミッド組織は、底辺を支える下級兵士をたくさん必要とし」、かれらがアフガニスタンやイラクの現場で闘っている間に「将校や将官の多くはワシントンで官僚化して腐敗する」(訳者・玉置悟氏のあとがき)。
副題は「最高機密に覆われる国家」となっていて、いかにも皮肉っぽい。
杜父魚文庫

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