歴史的惨敗を喫して政権を奪われ、呆然自失状態にあった自民党だが、これからどう対応していこうとするのか。後継総裁や党3役など執行部体制が決まらないとなんともいえないが、そろりと動き出す気配も見え始めた。
16日に衆参両院で行われる首相指名選挙では、若林正俊両院議員総会長に投票することになった。その直前に麻生首相は総裁を辞任する。「総裁不在」の状況をわざとつくり出し、若林氏に投票するというわけだ。
首相指名選挙への対応をめぐっては、「麻生と書くべきだ」「白票にしよう」などと議論が錯綜した。結党以来、初めての屈辱的な政権交代が実現してしまったのだから、右往左往するのも当然だ。
その結果、若林氏への投票という「妙手」が出てきたわけだが、こういう危機的状況に陥ったときにも、知恵者はいるものだ。問題は造反がどの程度出るかだ。白票やほかの名前が続々と出てしまったら、目も当てられない。
この首相指名選挙のあと、総裁選は18日に告示、28日に投開票という段取りだ。首相指名選挙までに後継総裁を決めるべきだという声もあったが、党員を対象にした投票も行うことになり、そのための時間が必要になった。
この10日間の「選挙戦」が自民党にとっては、党再生に向けての一歩になるはずだ。何人か出馬するのであれば、全国で候補討論会を開催すればいい。総選挙惨敗に終わった要因、これからの党再生の行方などを率直に議論する場になれば、党の立て直しイメージも出てくる。
*筆者の予測はズバリ、高村正彦新総裁
16日の首相指名選挙では若林氏への投票で一本化するものの、実態としては党内で後継総裁選びの調整工作が進行していくことになる。
後継総裁はだれか。総選挙の結果が判明した時点で、筆者は高村正彦氏ではないかと直感した。これは55年体制時代の政治記者的感覚によるものだから、もはや当たらないかもしれないが、党内結束を第一に考えれば、高村氏しかいないように思える。
小派閥の領袖だが、ぎらぎらしていない温厚な性格で、党内に敵はほとんどいない。結党以来の危機に直面している自民党をたばねていくには、恰好のベテラン議員である。
問題は、高村氏の場合、党の結束優先という内向きの印象がもろに出てしまうことだ。今後の国会対応や来年の参院選を見据えて、「打って出る」というイメージには迫力不足ということになる。
総選挙惨敗直後には、まず舛添要一参院議員に白羽の矢が立った。舛添氏は「麻生降ろし」が実現した場合の最有力後継候補でもあった。総選挙で多くの大物議員が自分の選挙区に張り付かなくてはならなかった中で、全国を応援に飛び回った功績もある。
だが、舛添氏はこの要請を固辞した。あえて火中のクリを拾ったあげく、一時的に使い捨てにされる恐れがあると判断したのかもしれない。舛添氏に意欲があるのは当然視されているのだが、政治家というのは、こういうときの判断がきわめて難しい。
「ぜひとも後継総裁に」と懇請される局面など、そうそうあるわけではない。党が苦しいときに、捨て身になるという構えを示してこそ、党内の信望が集まるというものだ。ただでさえ舛添氏に対しては党内に「やっかみ」感情が強い。後継総裁の要請を早々と断った舛添氏の心情も分かるが、政治家の判断としてはどういうものであったか。
*オープンな総裁選になる可能性も
そこで、何人かの名前もあがっているが、意欲を隠していないのが石破茂氏だ。防衛通の一方で農林議員でもあり、地方での自民離れを食い止めるには適任、という見方もある。所属する旧津島派は額賀派に衣替えした。派閥自体がガタガタになっている現状からすれば、かつてのような派閥次元の総裁選びにはなり得ないとも思われる。であるにしても、所属派閥が一致して石破氏を推すかどうかがネックとなる。
小池百合子氏は派閥には頼れないと判断してか、総選挙後、町村派を離脱した。野田聖子氏とともに、初の女性首相が誕生するときの最有力候補なのだが、派閥離脱が有利に作用するかどうかは分からない。
そのほか、石原伸晃氏、町村信孝氏、谷垣禎一氏らの名前があがっている。総裁選に立候補するには20人の推薦議員が必要だ。今回は、とりわけ小選挙区で勝ち上がってきたか、比例復活かが重要なポイントにもなる。以上の顔触れの中で小選挙区当選者は、石破、石原、谷垣の3氏である。
保守系議員の中でひそかにささやかれているケースが二つある。ひとつは安倍晋三氏の再登板だ。安倍氏の電撃退陣が自民退潮に拍車をかけることになったのだが、「病気だったのだから仕方ない。いまは完治したわけだから、もう一度という声が出てもおかしくない」というわけだ。
もうひとつはかなりのサプライズといえるのだが、平沼赳夫氏の復党、総裁選出馬である。当選者119人にとどまり惨敗した自民党だが、国家観や歴史認識を重視する「真正保守派」が20人程度はいるとされる。こうした議員が糾合されれば、平沼氏の推薦グループにはなり得る。
安倍氏、平沼氏とも可能性は薄いのだが、結党以来の危機とあっては、通常の政治常識は通らない。「保守再生」が党立て直しのカギになるといわれているだけに、保守派のリーダー格である両氏が急浮上する余地がまったくないとはいえない。
小渕恵三首相が急死するという事態を受けて後継総裁となった森喜朗氏は「密室の5人組」の談合によって選ばれたとして非難された。当時、筆者はテレビのワイドショーで「こういう緊急事態で、後継選びに時間を費やしていていいのか。短時日で選出したのは、長い間の政権党としての知恵だ」と発言して、ほかの出演者とやりあった記憶がある。
森氏は派閥領袖であり、自民党の党内秩序からすれば、最もおさまりがよかった。これが自民党の危機対応力といえたのだが、いまの自民党にはそうした「芸当」をやってのける百戦錬磨の実力者が極端に減ってしまったのも事実だ。
そうした状況を考えれば、ここは思い切りオープンに、20人の推薦人を集めることができた人が自由に出馬して競い合うといったかたちがいいのかもしれない。党再生の行方は総裁選の進め方でおのずと浮かんでくるともいえそうだ。
*鳩山新政権の政権移行は難航気味
そこで、鳩山新政権の「政権移行」準備はスムーズに進んでいるのかどうか。これがまた、初体験のことだからすんなりと運ばないのは目に見えてはいたが、どうにも難航気味である。
小沢一郎新幹事長と鳩山氏の関係も微妙になった。小沢氏は幹事長就任を当然の流れと見ていたらしい。だが、鳩山氏は選挙担当の代表代行のままとしたい意向だったようで、小沢氏が不快感を抱いたとされる。
これが深夜のどたばた決定につながった。鳩山氏と岡田克也氏の代表選挙で、小沢氏は「より操縦しやすい」鳩山氏を支援した。そこから鳩山-岡田対決は、親小沢-反小沢の対立の構図として描かれたが、本来は鳩山氏も小沢氏に近いわけではなかった。
鳩山氏が小沢氏の幹事長起用をためらったように見えるのは、そういう背景があった。幹事長就任要請の一瞬の遅れが今後に尾を引かないとも限らない。政治の世界はそういう、ちょっとしたズレが意外な展開を引き起こすこともままあるのだ。
そのあたりは注意深く見ていく必要がありそうだ。ともあれ、小沢幹事長が決まったことで、岡田外相、菅直人副総理・国家戦略局担当相、平野博文官房長官、藤井裕久財務相、山岡賢次国対委員長(留任)あたりまでは確定した。
その後の人事は首相指名後、一気に取り運ぶということのようだが、鳩山氏としては小沢氏の意向を一段と気にする必要に迫られた。鳩山氏は、党や国会対策は人事も含めて小沢氏に任せるとしているが、では閣僚の布陣は自由自在に決められるのかというと、そうではない。党と内閣の人事は裏表の関係にあり、小沢氏の意向を確認しながら進めなくてはならない。
総選挙を仕切り圧勝に導いたことで、小沢氏のパワーは一段と強化された。小沢グループは120人規模に達したともいわれ、党内に君臨する不気味な存在となった。鳩山氏としては、表向きの華々しさとは裏腹に細心の注意をはらわなくてはならない政権発足といえそうだ。
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3965 自民党が反転攻勢に出るための条件 花岡信昭
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