4829 天動説と地動説  加瀬英明

世界は2010年代に入った。先進国に住んでいる私たちは、暗い不況のトンネルのなかを進んでいて、つぎの十年を展望すると、明るい未来を描くことが難しい。それにしても、この10年のあいだに世界がなんと大きく変わったことだろうか。
2000年が明けた時には、ソ連が崩壊して東西冷戦が終わったために、アメリカが唯一つの超大国となって世界を睥睨していた。だが、アメリカは2001年にニューヨークの世界貿易センタービルが破壊され、その7年後にウォール街が自爆し、そのあいだにイラク、アフガニスタンの中東の泥沼にはまった。一転して、アメリカは力を衰えさせてしまった。
だが、先進諸国をよそにして、後進国とか、発展途上国とか長いあいだにわたって呼ばれた、中国、インド、東南アジア、中東、中米、南アメリカ、アフリカにいたる新興諸国にとって2000年から昨年までは、輝かしい10年となった。12億人の人口を擁する中国と、11億人のインドをとれば、この10年間でGDP(国内総生産)――経済規模が倍増した。ブラジルも好況に湧き、インドネシア経済も上向いた。ロシアは原油価格が一時、暴落したためによろめいたが、ソ連時代よりもはるかに豊かな生活を享受している。
この10年間で、ウクライナで株価が9倍になり、ペルーで8倍というように、多くの新興諸国が花見酒経済を謳歌した。20世紀が終わるまで、世界が豊かな先進国と貧しい後進国の二極構造に分かれていたものだったが、過去のものとなった。
これらの新興諸国の急速な経済成長は、1960年代に所得倍増の勢いで伸びた日本経済を思わせる。
これまで先進国に住む私たちは、人類が先進国と、後進国の二つの世界に分かれているという世界観を、まるで天動説のように信じてきた。21世紀の初めの10年は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を代表格とする新興諸国が、目覚ましい経済成長を遂げるなかで、天動説に代わる地動説が新しい真理となって現われた。
今年もこれらの新興諸国が、世界経済の牽引車の役割を果たすことになろう。これらの新興諸国に巨額の投資が引き続いて流れ込み、新興諸国経済が世界総生産の伸びの70%以上をもたらすことになるはずだ。
といっても、新興諸国経済が右肩上がりの上昇を、ずっと続けてゆくとは限らない。昨年、ペルシア湾岸のドバイが大きく揺らいだのが好例だ。東アジア経済が1997年に東南アジアから始まって通貨危機に見舞われたし、98年にロシアが債務不履行に陥ったために、株式市場が大暴落を演じたように、しばしばぶれることがあろう。
現在、中国において不動産バブルが沸騰点に達しており、破裂するのではないかと懸念されている。もし、中国経済が急激に冷えこむことがあれば、中国にとって何よりも大切な政治的安定が揺らぎかねない。
中国はこの5月から一昨年の北京オリンピックについで、国威を賭けて上海万博を開催する。実は今年の上海万博は、中国にとって二回目の世界博となる。しかし、中国政府はあえてその事実に触れようとしない。
中国は1910年に、当時、清と呼ばれたが、南京において世界博を催している。南京世界博は清朝が中国の近代化に努めるなかで計画され、開催された。日本、アメリカ、ヨーロッパをはじめとして、14ヶ国が参加した。1910年5月に開会する予定だったが、準備が遅れて6月から始まった。
ところが、翌年の1911年に辛亥革命が起ったために、清朝が倒れてしまった。中国人は縁起を担ぐ者が多いから、上海万博の翌年の2011年に共産政権が倒れるのではないか、国内に不吉な予兆がひろがることを恐れている。
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