五月決着を繰り返す鳩山首相の言明をよそに米軍普天間飛行場の移設問題は混迷の度を深めている。政府・与党の沖縄基地問題検討委員会を主宰する平野官房長官の発言が、混迷に拍車をかけたと批判されているが、それだけ焦りがある証拠といえる。
解決のための手持ちカードを持たずに五月決着を言っても展望が見えない。むしろ米海兵隊の普天間居座りの可能性が濃くなった。平野官房長官は、それだけは避けたいということだろう。それが名護市長選の結果は斟酌しないとか、手続きも含めて法律でやらなければならない部分もある・・・という発言に表れた。米国への配慮の側面もある。
しかし日米合意の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)については、小沢幹事長が否定的発言をしたことから急速に凋んでいくことになろう。その小沢幹事長も具体策を持っているわけではない。一時は下地島(宮古島市)に関心を示していたが、SACO協議でも検討されていて可能性はない。何よりも小沢幹事長と米側の間には、鳩山首相を上回る距離がある。米側との再折衝、合意なしには話が進まない。
昨年は岡田外相が米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)への統合案を日米間で模索していた。キャンプ・シュワブ沿岸部を断念し、しかも普天間移設を実現するとすれば、嘉手納統合案は有力な解決策となる可能性があった。
ここでSACO協議の初期段階で検討され、斥けられた「嘉手納統合案」について解説してみる。
「嘉手納統合案」のメリットとされたのは①確実に米軍基地の整理統合を促進でき、沖縄県全体の負担軽減に直結する②経費は、(海上施設に比べ)はるかに安上がり③工期は、環境アセスメントなどの必要もなく、(海上施設に比べ)大幅に短縮できる④山を削ったり、海を埋め立てたりする必要がないので環境問題や希少生物などに与える影響はほとんどない⑤SACO協議において、吉元副知事(太田前県政時代)が提唱した経緯があり、沖縄県の立場からも現実的な選択肢の一つと考えられる⑥米軍基地の空軍、海軍、海兵隊による統合運用は、ラムズフェルド米国防長官が推進する「米四軍統合の推進」という方針に合致する⑦米海兵隊としても、名護市に比べ居住地からの通勤時間を大幅に短縮でき利便性が高い・・・というものであった。
しかし米側は軍事的な理由で反対、これに日本側は反論している。
①固定翼機と回転翼機(ヘリ)との共同使用は、トラフィックの密度が増大した場合に運用上の混乱を招く。(これには日本側から次の反論が出た。:ハワイのカネオヘ基地ではヘリと固定翼機の共同使用が行われている。また、有事における来援部隊受け入れのための飛行場は別途考える(例えば、下地島飛行場、航空自衛隊鹿屋基地、那覇空港など)。
日本側にも住民対策が検討されている。
①近接する嘉手納町・北谷町市街地における騒音対策が必要。(防音壁の構築で相当程度解消される)。
②外来機を含む固定翼機による騒音被害が増大している現状での「新たな基地負担」に対する地元自治体の抵抗は厳しいものがある。(外来機の離発着を県外・国外に分散することにより、嘉手納基地における離発着回数を総体として削減することができれば、十分に交渉の余地がある)。
嘉手納基地は、嘉手納弾薬庫とキャンプ・シールズが隣接し、三基地を合わせると約50平方キロメートル。那覇市や沖縄市以上の面積になる。嘉手納基地や隣接する弾薬庫地区にヘリコプターの着陸帯などを建設して、普天間飛行場の機能を移せば、対応できるというのが、SACO協議の初期段階での日本側の主張であった。岡田外相が「嘉手納統合案」にこだわった理由はここにある。
しかしこの案は空軍の嘉手納基地に海兵隊が入ることに米軍内で調整がつかなかったので葬られたいきさつがある。空軍の戦闘機や輸送機が頻繁に離着陸する近くで、指揮系統が違う海兵隊のヘリコプターが離着陸するのは技術的に困難との指摘もあって統合案は断念された。
日米関係が良好ならば、空軍と海兵隊の調整を米国防総省を通じて再度、働きかける手がある。しかし鳩山首相の「トラスト ミイ」以来、オバマ政権の対日不信が増幅されている現状では期待できない。結局は普天間居座りで終わるのではないか。
<米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題に関し、平野博文官房長官が27日、移設先となる地元自治体の合意が得られない場合の法的決着の可能性に重ねて言及したことで、政府・与党内に波紋が一層広がった。同県名護市辺野古に移設するとした現行計画の代替案探しが難航する中、鳩山由紀夫首相が明言する「5月までの決着」を危ぶむ見方も出始めている。
平野長官は同日の記者会見で、普天間移設先の自治体が受け入れを拒否した場合の対応に関して「理解を求めることは絶対必須」としながらも、「手続きも含めて法律でやらなければならない部分もある」と、前日に続いて言及。土地の強制収用などに踏み切る可能性についても「一般論としてはある」と否定しなかった。
名護市長選で移設反対派の稲嶺進氏が勝利したことで、現行計画の実現は極めて困難となった。
一方、鳩山政権発足後、新たな移設先候補として米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)や下地島(同県宮古島市)、海上自衛隊大村基地(長崎県大村市)などが浮上。首相周辺では、徳之島(鹿児島県奄美群島)への移設の可否を探る動きも出てきた。しかし、いずれも地元や米軍の反対で、有力な案とはなり得ていない。
平野長官の一連の発言は、こうした現状を踏まえ、現行計画も移設先の選択肢に残す狙いがあるとみられる。名護市長選後も日米合意の履行を求める方針を変えていない米国への配慮の側面もありそうだ。政府関係者も27日、「民意を斟酌(しんしゃく)するというのは建前だ」と語り、平野長官に同調した。
しかし、平野長官は政府・与党の沖縄基地問題検討委員会を主宰する立場だ。にもかかわらず強硬手段の可能性にわざわざ触れたことに対し、与党内や沖縄県には反発が拡大。社民党幹部は「あんな強権的な発言は自公政権でもしなかった」と語り、怒りをあらわにした。
首相は27日の参院予算委員会で、「沖縄県民の頭越しに解決するつもりはない」と沈静化に努めると同時に、「5月までに必ず結論を出す」と重ねて強調した。だが、混乱が続く状況に、民主党内からは「5月決着はますます難しくなった」(中堅)との声も漏れている。
◇普天間・主な移設候補地
【沖縄県内】
◇米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)
移設先として日米が2006年に合意。名護市長選で移設反対派が当選
◇米軍嘉手納基地(嘉手納町など)
統合案に米軍が難色を示しているほか、地元も反対
◇下地島(宮古島市)
過去の日米協議で検討されたが、沖縄本島から遠いことなどを理由に見送りに
◇伊江島(伊江村)
過去の日米協議で検討されたが、地元の反対などで見送りに
【沖縄県外】
◇陸上自衛隊東富士演習場(静岡県)
米側がヘリ訓練の一部移転を提示。地元が受け入れに反対
◇海上自衛隊大村基地(長崎県)
鳩山首相の私的勉強会が候補地として提示。地元が受け入れに反対
◇徳之島(鹿児島県)
一部で浮上。地元や米側との調整が課題
【国外】
◇グアム(米)
社民党が主張。抑止力維持の観点から鳩山首相は否定的な見解を表明(時事)>
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
4878 混迷を深める普天間飛行場の移設問題 古沢襄
未分類
コメント