6857 集団的自衛権が行使できないと北朝鮮に対応できない 古森義久

北朝鮮の軍事挑発に対して平和・安全保障研究所理事長の西原正氏が説得力のある論文を書いています。産経新聞の「正論」ですが、その見出しのままだと、意味がよくわかりません。要するに北朝鮮の軍事の挑発や攻撃に対して、アメリカと韓国が軍事的な報復をしないと、いつまでも宣言していると、北朝鮮はますます増長して危険な軍事攻撃をしかけてくる、という主張なのです。
だからアメリカも韓国も最悪の場合は軍事手段をとるのだという姿勢を示しておかねばならない、という大胆な主張なのです。軍事力は使うこともあるからこそ、抑止として平和の維持の機能を果たす。どんな場合でも使わないという軍事力は軍事力本来の目的を果たさないことになります。
西原氏はもう一つ、重要な点を主張しています。
それは日本が集団的自衛権を行使できるようにしておかないと、北朝鮮の実際の攻撃にきちんとした対応ができない、という警告です。有事にアメリカや韓国と連携しての自衛のための軍事措置がとれなくなる、というのです。
≪新たな半島有事の予兆≫
11月23日に北朝鮮が韓国延坪(ヨンピョン)島の軍基地や住民地区を砲撃して多大な被害をもたらした。ここに新たな半島有事の予兆を感じる。
北朝鮮の砲撃の狙いは、対米協議を再開して国交正常化を進め、自国の国際的認知を勝ち取るために、米国を交渉のテーブルに引っ張り出すことにあったと見る べきである。そして、砲撃の数日前、金正日、金正恩父子が国防委員会の連中と砲弾発射陣地を視察したと伝えられていることから判断して、戦闘体験のない 28歳の金正恩「大将」に軍事作戦の経験をさせることにあったと推察できる。
1983年にラングーン(現ヤンゴン)で北朝鮮工作員によ る全斗煥韓国大統領一行への暗殺事件があり、閣僚ら17人が爆殺されているが、この計画を立てたのは金正日氏だったとされる。北朝鮮では新しい指導者に は、その権威を確立するため、こうした物騒な“肝試し”をさせているのだ。
金正日総書記は、米国が二国間協議に応じてこないことにいら だち、今年は3月に韓国哨戒艦「天安」を撃沈、11月初めにはウラン濃縮施設を公開した。米国が協議に応じず、核開発の放棄を迫る「戦略的忍耐」作戦を続 ける限り北朝鮮の挑発は繰り返されよう。3回目の核実験や中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程3000キロ)の発射などが予想され、南北境界線地域での 挑発もあろう。
≪抑止力に欠ける対抗措置≫
韓国や米国はウラン濃縮や砲撃を強く非難したが、軍事的報復措置は何ら取っていない。哨戒艦撃沈後と同じで、今回も韓米両国は合同軍事演習をしただけだ。
米国はすでにイラクやアフガニスタンでの軍事作戦に、兵力、装備、国防費の多くを回しており、朝鮮半島で新たな戦端を開くのはぜひ避けたいところだろう。そのうえ、北朝鮮に対する軍事行動は米国の対中関係を複雑にする。
実のところ、韓国も北朝鮮との戦闘を展開して、これまでに築いた経済的繁栄を失う道を選びたくないであろう。哨戒艦が撃沈される不注意を許したこと、延坪島での韓国軍の自走砲6門のうち3門が故障していて反撃できなかったことを見ると、韓国軍の戦闘準備態勢は予想以上に低下している。さらに、開城(ケソ ン)に投資して作った工業団地で働く韓国人をまず撤収させるまでは、韓国軍は北朝鮮に対して強い軍事行動をとることはできないであろう。
北朝鮮は、こうした韓国軍の弱みにつけ込んだショック攻撃を今後も試みるかもしれない。
それに加えて、国連安保理の対北経済制裁決議も、中国の巧妙な裏からの経済支援の継続で効果が半減している。北朝鮮に出入りする物資の点検も、中国の協力 が不十分で効果をあげているとは言い難い。さらに、中国は北朝鮮の核開発よりは体制崩壊による難民の流入を懸念している。だから、中国は、ウラン濃縮活動も延坪島砲撃も非難していないのである。
これらを考え合わせると、病弱な金正日総書記と未熟な金正恩氏の下の北朝鮮は、中国の黙認と支援を得て、核開発を進め、韓国へのミニ攻撃を続けるであろう。
≪集団的自衛権の行使可能に≫
日本の安全にとっては、北朝鮮の軍事挑発よりも、米韓の報復手控えの姿勢の方が問題ではないだろうか。日本は、米韓両国が「冷静に慎重に対処する」という 美名の下に、常に、軍事的報復を控えていることに注意を払う必要がある。米韓による合同海軍演習も北朝鮮に対する抑止力にはなっていない。北朝鮮が繰り返している挑発が、それを証明している。
米国が北朝鮮の挑発に乗らず冷静に外交的に対処したいのは理解できるし、米国が北朝鮮に対して 「戦略的忍耐」姿勢を続けることの利点も理解できる。しかし、米国が軍事行動を控えているということは、もし将来、北朝鮮が日本を挑発したときも、米国は 同じ姿勢を示す可能性が高いということである。つまり日米安保条約の第5条事態(外部からの対日攻撃があった事態)が発生しても、米国は合同演習などの示威行為でとどまるだろうという予測である。
ついでながら、同じことは尖閣諸島の防衛についてもいえる。米国が第5条は尖閣諸島の防衛に適用されると言明しても、米軍が実力行動に出るかどうかは疑問だとすべきかもしれない。中国もそう見ているのではないだろうか。
だからこそ、日本は真剣に自国防衛のシナリオを描いておかなければならない。菅直人首相は、情報収集の強化および不測の事態への準備を指示し、米韓との連 携強化を謳(うた)った。それぞれは適切な方針であるとしても、具体的に情報収集強化のために何をするのか、どんな不測の事態を想定してどんな準備をするのか、不明である。
この際、集団的自衛権を行使できるようにしておくことが重要であるが、それを来るべき防衛大綱でどう表現するのか。米韓との連携とは具体的に何なのか。制服組を加えた国家戦略室を強化し、あらゆる事態を想定して、戦略を立てておくことが焦眉の急である。
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました