7015 菅首相の「反転攻勢」は成功するか 花岡信昭

*一気に勝負に出る菅首相
菅直人首相が年明けから一気に勝負に出た。「小沢切り」「消費税」「TPP(環太平洋経済連携協定)」「与野党協議」がキーポイントだ。
つまりは政局と内外政策の双方で主導権を握り、実行力を誇示しようということなのだろうが、なにやら、やぶれかぶれの反転攻勢作戦のようにも見える。菅首相に勝算はあるのだろうか。
元日、小沢一郎氏は都内の私邸で新年会を開き、120人の民主党議員が参加した。一方で、菅首相が開いた公邸での新年会に出席した議員は50人にとどまった。この対比は、今後の政局攻防を見通すうえできわめて興味深い。
民主党の衆参両院議員400人余のうち120人が小沢氏の「立場」を支持しているということになる。仮に小沢氏が離党して新党を結成したとしても、この120人がついていく保証はないが、この段階で、党内の4分の1を超える議員たちが小沢邸に集結した意味合いは重い。
菅首相はこれに刺激されたか、4日の年頭記者会見で、これまでよりもさらに踏み込んだ。小沢氏に対し、強制起訴された場合、「政治家としての出処進退」を明らかにするよう求めたのである。離党、あるいは議員辞職を意味していることは明白だ。「裁判に専念するならそうすべきだ」とも述べた。
さらに、この会見では、めざすべき国のあり方についての三つの理念として、「開国元年」「最小不幸社会」に加え、「不条理をただす政治」を掲げた。小沢氏に対するあからさまな挑戦といっていい。
*小沢問題の落としどころをどう考えているのか
小沢氏はさすがに激しく反発、同じ日に行われた衛星放送BS11デジタルの番組収録で、「自分を裁くのは、私と国民だ」「党内政局レベルではなく、天下国家のまつりごとレベルの政治を行うべきだ」などと菅首相の態度を批判した。
1年前の元日には、小沢邸の新年会に出向いて乾杯の音頭を取った菅首相だが、両氏の関係は完全に様変わりした。
小沢氏の強制起訴は1月中にも行われると見られている。その段階で小沢氏はどういう動き方をするか。豊富な政治経験を持つ小沢氏だけに予測は難しいが、民主党にとっては13日の党大会で「小沢問題」をどう扱うかが問われることになった。
菅首相がここまで明白なかたちで「小沢切り」の姿勢を鮮明にしたのだから、党大会でこの問題を素通りしたら、おかしなことになる。菅首相の党代表としての面目は丸つぶれだ。
政治の世界のリアリズムからいえば、菅首相がいかにもカッコよく「小沢排除」の姿勢を打ち出してしまったのは、成熟した政治行動とはいえない。ここは誤解を生みそうだから周到な言い回しが必要だろうが、練達の政治家ならば、小沢氏の「単独離党」あたりを落としどころとして設定し、水面下でそのための環境作りをしなければならない。
党代表を務めた小沢氏である。菅首相としては記者会見で派手に打ち上げるよりも、一対一のハラを割った会談をするなりして、小沢氏が身を引くことができるような舞台をしつらえる努力を重ねるべきであった。
つまり、過去の例を振り返って見れば明らかなのだが、実力政治家に離党、議員辞職を迫るというケースでは、その政治家を徹底的に非難するばかりでは、ことは収まらない。出処進退を明確にすることによって、党の危機的状況を救う、あるいは、野党から相当の譲歩を引き出せる、といった交換条件がなければ机上の空論に終わる。
*「菅VS小沢」が鮮明になるにつれ、打つ手は限られる
菅首相としては、小沢氏の「政治とカネ」の問題を徹底追及することによって、国民の支持回復を図ろうとしたのだろうが、政治の世界ではこれはまったく逆行した動きだ。「小沢切り」は菅首相の政権延命策としか映らない。
あるいは、菅首相は仙谷官房長官の更迭を決断し、これをテコに小沢氏を攻め立てようとするのか。小沢、仙谷両氏の問題の「同時決着」ということになるが、ここまで「菅VS小沢」の対立構図を鮮明にしてしまうと、小沢氏としては仙谷氏更迭を自身の出処進退と結び付けられるような展開を受け入れるはずがない。
以上は小沢氏の「政治とカネ」問題の是非論とは次元の異なる「構造分析」である。小沢氏に説明責任を求める主張も分からないではないが、「小沢問題」はいまに始まったことではなく、国会招致が実現していないのも小沢氏を引っ張り出すだけの政治的力量が与野党ともに備わっていないためである。
年が改まってがぜん意欲的になったかに見える菅首相だが、どうも根本的なところで勘違いしているように思えてならないのだ。
菅首相は消費税引き上げに踏み切りたい意向を一段と明確にし、税制改革と社会保障改革を一体化して与野党協議の場を設定したいとしている。これが実現できれば、政策レベルにおける「大連立」の意味合いをはらんでくる。
消費税引き上げに断固反対の社民党や共産党は、菅首相の提案をにべもなく退けた。この両党以外の自民党、公明党などは「まず素案を提出してからの話」(谷垣自民党総裁)などとして、条件をつけた。
*消費税、TPPで与野党協議実現を図る菅首相
谷垣氏は一昨年の衆院総選挙での民主党マニフェストの撤回も求めた。ムダの排除などで財源を生み出すとしたマニフェストの基本構図が破綻していることはすでに明白だが、民主党側にとっては与野党協議実現までにはかなりの高いハードルが立ちはだかっているという実態を突き付けられたかたちだ。
菅首相はTPP交渉への参加にも積極的な構えを示し、消費税とともに6月までに方向性を打ち出したい意向を明らかにした。
消費税とTPPを重要政策課題として掲げたのは、現状を踏まえた問題認識としては妥当といえるのだろうが、いずれも、民主党内に異論が根強く存在する。党内議論の集約は容易ではない。
6月という時期の設定は、3月末の予算成立、4月の統一地方選をしのぎ、通常国会(6月末までの見込み)終了後に先送りするということだろう。なんとも手前勝手な日程設定といわなくてはならず、予算成立ひとつ取って見ても、衆参ねじれ国会でどういう展開になるか定かではない。統一地方選で惨敗といった事態を招けば、引責退陣もあり得る。
菅首相はなぜ支持率の急落に直面したのか。そこを改めて考えたい。「尖閣」をめぐる一連の「失態」、さらには北方領土へのロシア大統領の訪問を許してしまったこと、北朝鮮の韓国砲撃にただちに反応せず、「拉致問題」にも積極姿勢を示さなかったことなど、外交・安全保障をめぐる不手際によって国民の不信を生んでしまったのではなかったか。
とりわけ、日中、日ロの首脳会談の実現に異様なまでの執着を示し、日中首脳会談でペーパーを見ながらおずおずと対応した姿に、国民は絶望感を抱いたのではなかったか。そこに表れたのは、国際社会でのなんとも情けない日本の地位低下であった。
*支持率急落の根本の原因は、統治能力への疑問
年頭の記者会見では、そうしたことへの反省はみじんも見られなかった。普天間移設について、日米合意に沿って取り組みたいと述べた程度である。
外交・安保問題での統治(ガバナンス)能力への疑問が、支持率低落の最大の要因ではなかったか。一連の失態には「国家主権」意識の欠落という重い命題がついてまわる。
最近、ある識者から興味深い示唆を受けたことがある。「日本は南北に細長い国という認識が一般的だが、排他的経済水域まで考えると、むしろ東西にふくらんでいるのです」という指摘である。
日本の最北端は北方領土の択捉島だ。最東端は南鳥島、最南端は沖ノ鳥島でいずれも東京から1800キロほど離れている。最西端は与那国島で、南鳥島からの距離は3140キロだ。
それぞれ200カイリの排他的経済水域を擁しており、領海(12カイリ)と合わせた総面積は447万平方キロ。これはEU(欧州連合、陸上部合計432万平方キロ)よりも広大なのである。
そう考えていくと、東アジア、あるいは西太平洋における日本の地政学的な重みが浮かんでくる。領土・領海・排他的経済水域をどう守るかということの重要さも伝わってくる。
菅首相の一連の失態が「反面教師」となって、国民は「主権維持」の重要性に気付いたのではないか。国際的には常識的な認識なのだが、戦後の平和ボケによって、そうしたことへの関心はきわめて薄くなっていた。それは国家リーダーたるべき菅首相も同様なのであった。そこがこの政権の致命的な欠陥といわなくてはならないようである。 
杜父魚文庫

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