7703 プーチンとメドベージェフの権力闘争があるのか 古沢襄

ロシアには二度行った。最初はエリツイン大統領末期、ハバロフクスクからイルクーツクに飛び、バイカル湖を船で渡ってブリヤート・モンゴル共和国の首都ウランウデ、そこからシベリア鉄道でイルクツークに戻って空路ウラジオストク経由で帰国した。ほぼ一〇日間の旅。
ウラジオストクで極東国際大学の日本語教師であるボイコ・ユリア女史に「ロシアはどうなる」と聞いたら「アル中のエリツインはお終い、あとはプリマコフよ」と言っていた。モスクワではどうか知らないが、極東ではプーチンの登場は予測されていなかった。帰国して新聞を読むとプリマコフ説ばかり。
三年後のプーチン大統領時代に二度目のロシア旅行をしたが、プーチンは資源外交をダイナミックに実行していたから極東の生活水準も目立った良くなっていた。ハバロフクスクからイルクーツクに飛び、イルクーツクからシベリア鉄道でウランウデ。そこからシベリリア鉄道で北辺のタイシェット。またイルクーツクに戻って空路ハバロフスク経由で帰国している。KGBという暗いイメージがあったプーチンをあらためて見直した。
このお陰で極東ロシアやシベリアには詳しくなったが、モスクワには行ったことがない。機会があればモスクワやセントペテルスクブルグにも行きたいと思いながら、すでに数年の歳月が去った。ロシア科学アカデミーの日本部長だった山田みどり女史から「私がモスクワにいる中にお出でよ」と再三再四、勧められたのだが・・・。
日本にいてはロシアの政情がよく分からない。宮崎正弘さんが言うように、中国のバブル経済は必ず破綻する。その保険のためにも日本はロシアとインドの関係を深めておかねばならない。砂漠化が著しい中国には資源らしい資源がない。それに較べてシベリアの資源は手つかずに残っている。資源大国であるロシアを放っておくて手はない。
だが麻生内閣以降、ロシアとの関係改善がストップしたままである。いつの間にかロシアは近くて遠い国になっている。私は東郷和彦氏(外務省元欧亜局長)のようなロシア専門家ではないが、ジャーナリストの感として日本にとってロシアが必要な国だと思っている。
海部内閣の時に海部首相が訪欧の外遊に飛び立った。当時の自民党幹事長は小沢一郎氏。すでに病状が進んでいたと思われる安倍晋太郎氏がほぼ同時期に訪ロの外遊に飛び立った。海部訪欧には冷淡だった小沢氏が安倍訪ロには痒いところまで手を届く面倒をみている。
その話を聞いた時に「中国派の小沢にロシア・パイプがあるのか」と奇異な感じを受けたものである。今にして思えば、鈴木宗男氏らロシア・パイプを小沢氏が持っていたことになる。
ロシアとくにシベリア開発に関心があったのは福田赳夫氏だった。私は田中・中国VS福田・ロシアだろうと思っていた。田中角栄側近から「福田はロシア石油に目をつけているが、ロシア石油は不純物が多くて役に立たない」と聞かされていた。
事実、二度のシベリア旅行でチャーターしたバスが再三再四途中でエンコして往生したものである。バスの運転手が短いホースを持っていて、バスのガソリン・タンクから、ガソリンを吸い出し、新しいガソリンを入れてエンジンをかける。慣れたもので感心したものだが、その度に角栄側近のロシア石油には不純物が多いという言葉を思い出したものである。
しかし不純物は石油の精製過程で除去される筈である。ロシア石油を忌避する理由にはならない。
やはり日本がシベリア開発に積極的に乗り出せないのは、日露間に横たわる北方領土の問題で解決の糸口が見いだせないことにある。メドベージェフ大統領になって北方領土の”ロシア化政策”に転じたことが気にかかる。
メドベージェフはプラグマティストであり、有能な行政手腕の持ち主で、プーチンに対して常に忠実な支持を与えてきたといわれてきたが、プーチンとの間に新たな権力闘争が生じているとの見方がある。メドベージェフは有能な行政手腕の持ち主だけに、北方領土の返還に消極的なロシア軍部やロシア外務省の意向を無視できないという感じがある。
プーチンは少し違う。KGB出身だけに腹の底では中国に対する不安感、不信感があるようにみえる。シベリアの人口は過疎化によって大幅に減っているという。その隙間に厖大な人口を抱える中国が入ってくるのではないかというのは、ロシア国民に共通した”嫌中国感情”である。
それを突破するには対欧州で成功したプーチンの資源外交をアジアで展開するのがプーチンの腹ではないか。パートナーとみているのは中国ではなくて日本なのであろう。東日本大災害でいち早く日本支援をプーチン首相が指示したのは、このような”下心”がある。
プーチンとメドベージェフの権力闘争が本当に始まっているのか、それはモスクワに行ってみないと分からない。在モスクワの河野大使も情報収集に余念がない筈だが、肝心の菅政権にはそのような長期的な対ロ外交姿勢がみられない。
杜父魚文庫

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