14845 保守派と改革派-割れる中国   古澤襄

■「一番迷走しているのは対日外交だ」
中国共産党の重要会議、中央委員会第3回総会(3中総会)が先月9日に開幕する直前、ある“ドキュメンタリー”映画がインターネットに流出し、中国国内で大きな話題となった。
タイトルは「較量無声」(声なき戦い)。中国軍の国防大学、総政治部、総参謀部などが合同で6月に若手将校向けに内部資料として制作した映画だ。
■宣伝映画すぐ削除
映画では、「米国をはじめ外国勢力は常に中国の政権転覆を狙っており、文化の浸透や、反中勢力の育成など5つの陰謀を巡らせている」といった“陰謀論”が展開される。
「旧ソ連の解体」や「中東・アフリカのジャスミン革命」も米国が裏で仕掛けたものと決めつけ、「西側社会の神話を信じれば、政権は衰退と滅亡の運命をたどることは避けられない」と結論づける。その上で、国内の改革派知識人、茅于軾氏らを「米国の代弁者」と名指しで批判した。
ネットには、「中国の置かれている危機的状況をわかりやすく教えてくれた素晴らしい教材」といった感想が数多く投稿された。その一方で、「冷戦時代の発想で、論理も破綻している」との厳しい意見もあった。
この映画で特に注目されたのは、プロデューサーが、習近平国家主席が所属する太子党(元高級幹部の子弟グループ)の有力者である劉亜洲大将だったことだ。国防大学政治委員を務める劉大将は習主席の軍内の腹心として知られる。それだけに映画は習主席の考え方を反映していると推測する共産党関係者は多い。
この映画がインターネットで見られたのは数日間だけ。その後、全てのサイトから削除された。その背景を、ある党関係者はこう解説する。
「3中総会で政局の主導権を握るために、保守派や軍部が世論作りの一環として意図的に映画を流出させたが、米国との関係を重視する改革派がその内容に強く反発し、ネット警察を使ってすぐに映画の禁止に踏み切ったのが真相だ」
■予算増額喜ぶ幹部
「昨年11月に習近平体制が発足した後、党中央には外交政策をめぐり常に2つの声があり、現場は混乱している」。共産党筋はこう明かした上で、「一番迷走しているのは対日外交だ」と説明する。
同筋によると、11月23日に東シナ海上空の防空識別圏設定を決めたのは、軍関係者や保守派などを支持基盤に持つ習主席周辺だという。「習政権が軍の支持を固めるための手段だ」との指摘もある。
防空圏ができたことで、中国空軍の同空域における活動範囲は以前の12倍に拡大したという。防空ミサイル部隊の人員や装備も補強される予定だ。「来年の国防予算は大幅に増額されることが予想され、軍幹部たちは大いに喜んでいる」と党関係者は話す。
また、来年春に発足する「中国版NSC」といわれる国家安全委員会も日本を主要な仮想敵としており、委員会内に日本担当の部署が設けられるとの情報がある。反日感情の強い世論に対し、対日強硬姿勢を訴えることで、政権の求心力を高めるのが狙いだ。
こうした動きに対し、李克強首相ら胡錦濤前国家主席が率いる派閥のメンバーは、強く反発しているという。実務官僚や地方指導者が多い胡派は、日本企業の対中投資や技術提供の減少による中国経済への悪影響を懸念している。
防空圏発表4日前の11月19日、胡派の有力者、汪洋副首相は、訪中した日中経済協会のメンバーと会談して日本との経済交流の重要性を強調し、習主席らの対日姿勢と一線を画した行動を取った。
■実績は「対日強硬」
「闘争の目標を日本に定めよう。中日の軍用機が空中で接近した場合、不測の事態を怖がらない決心と勇気が必要だ」(11月29日付、環球時報社説)
「中国は争いごとを全く恐れていない」(同日付、国際先駆導報の寄稿)
中国メディアは最近、「日本との武力衝突は避けられない」との見方をさかんに流している。しかし、共産党関係者は「ポーズにすぎない」と分析する。「習体制は国内をまとめるのが精いっぱいで、外交環境を改善するゆとりはない」
習体制が誕生して1年あまりたったが、成果といえるものはほとんどない。株価も景気も低迷し、外資は次々と中国から引き揚げ、多くの地方政府は財政破綻の危機にひんしている。物価も高騰し、空気汚染などの環境悪化も深刻だ。
外交面でも米国や周辺国との関係は一向によくならず、中国包囲網が形成されつつある。習体制が国民に対し実績として自慢できるのは、対日強硬姿勢を続けたことだけという冷めた見方もある。
共産党元高官によれば、党内には、習主席の政治、外交、経済政策に大きな不満を持つ人が多いが、今は静観している。今後、習主席が大きな失敗をしたとき、改革派らが一気に政権の主導権を奪う動きに出てくる可能性があるという。
内政、外交の足並みがそろわず、中国の共産党内の「声なき戦い」は続く。
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終わりのない挑み合いが続く国際社会。生き抜く力を日本は試されている。(産経)>
杜父魚文庫

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