16144 石油パイプライン交渉と類似する天然ガス交渉   古澤襄

上海で行われた中ロ・トップ会談の中心課題がロシア産天然ガスだったと、海外メデイアを含めて意識しなかったのは無理もない。モスクワの外国メデイアもプーチンの厚い情報秘匿の前に為す術がなかった。
本来ならアメリカの情報当局が中ロの動きを察知すべきだったが、米ソ冷戦が終結後、アメリカのロシア研究熱が驚くほど低下して、代わって中国研究熱が花盛り。ウクライナのEU志向で、プーチンがクリミア強行的態度に出るとはオバマもケリー
も予想できなかった。プーチンと電話会談をしばしばおこなうドイツのメルケルですら予想外だったという。
しかし資源外交で疲弊したロシアを立ち直させたプーチンの軌跡を振り返ると、想定の範囲内という見方も成り立つ。まず西ロシアの石油、資源ガスは埋蔵量の先がみえている。それを意識したプーチンは手つかずの東ロシアの資源を開発し、欧州からアジアへの経済外交の転換を模索していた。
アジアへの経済外交の中心は世界第二の経済大国だったのは言うまでもない。中国はまだ経済成長の入り口にあった。2000年4月、森喜朗元首相は就任後初の外遊先にロシアを選び、プーチン大統領と初の首脳会談を行った。森の念頭には北方領土の返還交渉があったが、プーチンの頭の中にはアジアへの資源外交の突破口として日本があった。
その一年前の1999年秋、私はロシア・イルクーツク州タイシェット(タイシェト)に行った。この地は第二シベリア鉄道の工事で日本人抑留者がかり出され、シベリア鉄道の枕木の数だけ死者がでたという痛恨の土地である。
だが、私の関心はタイシェト周辺で石油の掘削作業がさかんに行われているという現地情報であった。これについては2013年秋に書いた「ロシア原油の輸入で遅れをとる日本 古澤襄」をお読みいただくのが手とり早い。
<ロシア原油の輸入で遅れをとる日本 古澤襄>
「シベリア・タイシェットと太平洋パイプライン」がトップ記事で読まれている。最近の太平洋パイプラインのことを記事化したものではない。過去形の記事が何故、読者の関心を呼んでいるのだろうか。
これについては昨年暮れに日本経済新聞が「東シベリア原油パイプラインが全線で稼働」で報じていた。プーチン大統領はアジアへの原油輸出を拡大すると大号令をかけたが、工事が完了しただけで輸出目的の達成はこれからである。
少し話は飛躍するが、田中角栄時代に「ロシア原油は硫黄分が多くて使い物にならない。これからは低硫黄で品質が高い中国原油の時代だ」と角栄派閥が触れ回っていた。多くの新聞やテレビが、この説を信じていた。
十年以上前にシベリアのタイシェットを訪れて、ロシア東シベリアの原油が低硫黄で品質が高いとアメリカが評価しているのを知った。角栄派閥の風評は大慶油田の開発で日本に原油の売り込みを図ろうとしていた中国側の謀略だった。その中国が石油輸出国から石油入国になったら、ロシア原油は低硫黄で品質が高いと百八十度違うことを臆面もなく言い出している。
現状はどうか。化学業界が昨年暮れに「東シベリア太平洋石油パイプラインが全線で稼働」の情報を出している。
■東シベリア産の原油を極東に輸送する東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO)は全長4740キロメートル。
東シベリアのタイシェトと中間地点のスコヴォロディノをつなぐ区間が先に完成したが、ここから中国の大慶を結ぶパイプラインが2009年末に完成し、2011年1月1日から、同パイプラインを通して年間1500万トンの原油がロシアから中国に供給されている。
中国は2009年2月、ロシアとの間で政府間協定を結んだ。
中国開発銀行がロシア国営石油会社 Rosneft に150億ドル、東シベリア太平洋パイプラインを運営するTransneftに100億ドルを低利で融資する見返りに、Rosneft は2011年から20年間、毎年15百万トンの原油の供給を行い、Transneftはパイプラインを中国に延長する。
CNPCは2009年7月、ロシアからの原油処理のため、遼陽市の製油所の拡大(11%) を開始したと発表した。2009/7/22  CNPC、ロシアからの原油用に遼陽市の製油所を拡大
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2010年10月、ロシアのイルクーツク石油と共同で探鉱調査を行っているイルクーツク州北部のセベロ・モグジンスキー(Severo-Mogdinsky) 鉱区で可採埋蔵量が1億1000万バレルと想定される大規模油田の試掘に成功したと発表した。
■2010/10/25 石油天然ガス・金属鉱物資源機構、東シベリアで大規模油田を確認
JOGMECは2012年6月、東シベリアの油田を、ガスプロム・ネフチと共同開発すると発表した。
イルクーツク州北部に位置するイグニャリンスキー鉱区で、埋蔵量1億バレル級の中規模油田。2013年末までに地質調査や試掘などを行い、2010年代後半から日量数万バレルの生産を見込んでいる。将来的に日本企業が49%の権益を獲得する。
同油田から採掘した原油は、東シベリア太平洋石油パイプラインでコズミノまで運び、日本に輸送する。
だが、読んで分かるようにプーチン戦略である対日原油輸出はまだ「絵に描いた餅」でしかない。具体化が進んでいるのは、中国に対するロシア原油の供給増。日本の話はあくまで将来予測でしかない。ロシア原油をめぐる日本と中国の綱引きは、どうみても積極的な中国に分がある。(杜父魚ブログ 2013.10.31 Thursday name : kajikablog)
この東シベリア・太平洋石油パイプラインは、2011年から中国大慶市への支線が先に開通して中国への原油供給が行われている。2009年の中ロ支線建設合意書には、中国開発銀行がロシア企業のロスネフチに150億ドル、トランスネフチに100億ドルの低利融資というロシア側に有利な融資を行っていた。
■東シベリア原油パイプラインが全線で稼働
懸案だった東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO)が極東ナホトカ近郊までの全線で開通したが、輸出ターミナルとなるナホトカ近郊のコズミノ港では、タンカーへの原油積み替え設備などを備えた埠頭を整備したという。しかし東シベリア太平洋石油パイプラインが本格稼働しているとは言い難い。
最大の目標国である日本がウクライナ騒動でロシアに対する経済制裁の欧米側に立ったからである。
さて、石油パイプラインの経過をみると、今回の資源ガスをめぐる中ロ交渉とまったく同じ経過を辿っていることが分かる。たとえば中国大慶市への支線が先に開通するに当たって、中国側は中国開発銀行がロシア国営石油会社 Rosneft に150億ドル、東シベリア太平洋パイプラインを運営するTransneftに100億ドルを低利で融資した事実は久しく伏せられていた。もっぱら石油代金の交渉で難航と欧米メデイアは報じていた。
■メドベージェフの二回の訪中
2010年9月26日、AFPは「ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領は26日、 3日間の中国訪問のため遼寧(Liaoning)省大連(Dalian)市に入った」と伝えた。旧日本軍と戦って亡くなった戦没者が眠る旅順の墓地も訪問したメドベージェフは「露中は血で結ばれている」とリップサービスをしているが本音ではない。
ロシア・メデイアは「東に目を向けるロシアのエネルギー外交」としてメドベージェフ訪中を評価している。ロシア科学院極東研究所のオスロトロフスキー副所長は「「ロシアは西側だけでなく、東にも目を向けるべきだ」と唱えた。さらに「エネルギーカードの切り方もプーチン流からメドベージェフ流に」と過大評価とも思える期待を示している。メドベージェフ訪中に
ロシアのエネルギー関係の高官や経済界の大物らが随行していることから期待が生まれたのであろう。
昨年の2013年10月22日から、首相に降格したメドベージェフは二度目の訪中をしている。
これについては産経・正論に木村汎・北海道大学名誉教授が「露首相訪中が語る日本の有利性」(2013.11.4 03:21)と論じている。ポイントだけを述べておく。
■ロシアのメドベージェフ首相が10月22日から23日にかけて中国を訪問して、21件にも上る文書に調印した。このため、すわ、日米に対抗する中露の結束強化か、と騒がれた。そうした狙いが存在したことは間違いなかっただろう。しかし、その実体は、そんな意図の実現にはほど遠いものだった。
 ≪3年前の訪問とは様変わり≫
3年前の2010年秋に行われたメドベージェフ氏の訪中に比べて、今回は多くの点で様変わりしていた。まず、氏の地位は大統領から格下の首相になっていた。
さらに重要な変化はロシア側における対日姿勢だった。3年前にメドベージェフ氏が大統領として調印した中露共同声明は、「第二次世界大戦の結果を見直すことは許さない」と明言していた。これは、ロシアと中国が領土紛争で日本に対して共闘するという姿勢の表明以外の何物でもなかった。
ところが、プーチン氏が大統領に復帰した12年以降のロシアは、尖閣諸島をめぐる紛争では日中いずれの立場にも与(くみ)しないとの立場を採る。実際、今回北京でメドベージェフ氏は反日的と受け取られる言辞を一切口にしなかった。
首相職に甘んじたメドベージェフ氏は、専ら「経済」を担当し、「政治・外交」にはかかわらないという説明も可能かもしれない。だが、よく見ると、「経済」分野ですら、同氏の影響力はプーチン氏に侵食されて減少している。そのことは、今回の首相訪中に同行したロスネフチ、ノバテック、ガスプロム3社の中国との契約状況からも窺(うかが)い知ることができる。
ロスネフチは、プーチン氏の懐刀のセーチン氏が社長を務める国営石油企業で、今回、中国との間で大きな契約を成立させた。ノバテックは、プーチン氏の柔道仲間のティムチェンコ氏率いるロシア第2の民間ガス会社で、今回、同様に成約を得た。他方、メドベージェフ氏が長年にわたり会長職を兼務してきた、ロシア最大手の国営ガス企業、ガスプロムのみは、手ぶらで北京を後にしている。
 ≪中国はロシア資源買い叩く≫
中露両国とも、今年3月の習近平・中国国家主席の訪露以来、エネルギー資源分野での協力深化ぶりを喧伝(けんでん)してやまない。しかし、その実相は以下の通りである。
モスクワは、米国発の「シェールガス革命」の影響が近く、アジアに到来し、ロシア産資源の販売先が少なくなることを憂慮する。そうなる前に、自国産の資源を中国、韓国、日本に売却する長期契約を結ぶ必要があると、焦る。
北京は、このようなモスクワの危惧を十分見透かしていて、ロシアの資源を買い叩きにかかる。例えば、ロシア産の天然ガスを国際価格よりもはるかに安値で購入しようと試みる。そのため、中露間でガス価格交渉は今回も暗礁に乗り上げて、合意に至らなかった。シェールガス革命によって、在来型の天然ガスの需要は低下し、今後、事態はわが方に有利に展開する。中国側はこう踏んで、ロシアを揺さぶっているのである。
ここ数年来、中露間の資源売買は「資源-融資」取引の形を取って行われている。つまり中国側はロシア側に多額の融資(ローン)を提供し、その見返りにロシア側から資源を受け取るというやり方である。両国間の資源貿易は、この方式で一見、順調に進行中であるかのように見える。だが、現実には価格面での対立の他にも、次のような難題に直面している。
 ≪「領土-極東開発」取引を≫
まず、そもそもロシア国内に中国向けの資源が存在するのか、という点である。西シベリアの資源はそろそろ底をつき、東シベリアの資源開発が喫緊の課題になっている。仮に、東シベリアに十分な資源が埋蔵されている場合であっても、それは西シベリア産に比べて、気候その他の条件から採掘が極めて困難である。それらの資源を掘り出しても、果たして商業的にペイするのか。加えて、輸送手段の問題もある。原油の場合はパイプラインの敷設、天然ガスの場合はLNG(液化天然ガス)に転換して運ばなければならない。
以上、検討してきた中露間のエネルギー資源取引の実態が、わが国に与える教訓は少なくない。
第一に自覚すべきは、日本が中国に比べて、ロシアに対し有利な立場に立っていることだ。日本は友好国の米国やカナダから安価なシェールガス提供を受けることにすでに合意済みだからである。
第二に、日本はロシアが望み得る最良の顧客であるという点だ。例えば、中国よりも高い国際価格でロシア資源を購入するからである。第三に、日本が科学技術大国であることだ。ロシアが自力だけではまかないきれない大口径のパイプラインを提供し、LNG施設の建設に協力し、省エネ技術を伝授し得る能力の持ち主である。(産経)
■木村名誉教授の先見性ある指摘
ことし2月にウクライナで政権が倒れる騒動があったが、昨年の11月に木村名誉教授はすでにいくつかの先見性のある指摘を行った。ウクライナ騒動という国際的な事件によって、中ロ関係が緊密化するなどいくつかの点では違う実相が生まれるかもしれないが、全体としてみると説得力がある。
さらにことし4月24日の「プラウダ」に注目すべき記事がでた。
「揉めに揉め続けているガス供給の価格で折り合いがつきそうな気配である。中国が焦る理由は大気汚染、石炭発電依存を構造的に改編し、ガスへの切り替えを急ぐという切羽詰まった理由がある。
しかし原油供給をロシアからパイプラインで輸入していても、ガスはロシア国営「ガスプロム」が値引きに応じないため、メドベージェフ首相が訪中しても、決着しなかった。ウクライナ問題で新しい顧客獲得を急ぐロシアは、米国のシェールガスの脅威も加わってきたため、価格でおりあう可能性が出てきたのだ」。
ロシア・ウオッチャーでない北京や上海の外国メデイアには、こうした情報が十分に得られていないから、宮崎正弘さんが「日本ではプーチン大統領の訪中により、中国と露西亜の「軍事同盟」の脅威が語られるが、プーチンの訪中の第一目標はガス輸出交渉の最終合意であった」と嘆くようになる。情報鎖国のロシアと中国相手の取材は難しい・・・。
杜父魚文庫

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