パキスタン当局が拘束。舞台裏では米軍とパキスタン軍の疑心暗鬼、相互不信が広がっている。おかしなニュースだった。米国人ギャリー・ブルックス・フォークナー(52歳)がピストルと刃渡り40センチのナイフで武装し、パキスタンからアフガニスタン北部へ潜入するところを発見、パキスタン当局が身柄を拘束したという。
普通、パキスタンで外国人旅行者が「危険地帯」へ行くときは、軍の護衛が付く。筆者とて先年、カイバル峠へ行った折もジープには運転手、ガイドに加えて軍の護衛がライフル携帯で同乗してきた。そういうシステムになっている。
フォークナーにも前日までパキスタン治安部隊の護衛がついていた。かれはその護衛の目を盗んで武器を携帯し、ひとりで国境を越えようとした。
ペシャワールに身柄を移されたフォークナーがパキスタン当局の取り調べに対して「ビン・ラディンを殺すためだ」と答えた。取調官が笑った。(この男、正気か?)と。
ところが、武器を携行したのもさりながら理由を聞くと「911テロ事件で親族に犠牲者がでた。懸賞金が2500万ドル。ビン・ラディンはパキスタン北部からアフガニスタン国境の山岳地帯に潜伏しているに違いない」と言い出したので、本気とわかったのだ、という(アルジャジーラ、6月16日付け)。
この事件は珍事としてかたづけられない要素を含んでいる。パキスタンはいったい本気でタリバンを退治する気があるのか、あるいはパキスタン軍の情報部がタリバンと通じているのではないか、とする疑心暗鬼である。これは共同作戦をとりながらも大きな齟齬が生じている米軍(NATO軍を含める)司令官のマクリスタル将軍とパキスタン軍のパルベス・キアニ将軍との長期にわたる心理戦、駆け引きの妙にも現れている。
▲次はタリバンの本拠地カンダハル総攻撃だが。。。。。。
パキスタンの南ワリジスタンへの猛攻は米側の再三の要請でおこなわれ、パキスタン精鋭部隊三万が投入された。しかしタリバン兵士の多くは「北ワリジスタン」へ逃げ去った。ばかりか彼らはイスラマバード、ラホール、ペシャワールで次々と自爆テロをやってのけ、パキスタン国内を脅かした。
その前に展開されたのはパキスタン北部、スワット渓谷への猛攻撃だった。十数万に避難民が出たが、犠牲を畏れずパキスタン軍はタリバンを制圧した。
しかし、「パキスタンは先だっての米軍によるヘルマンド県マルジャへの大規模な攻撃を失敗と見ている」(アジアタイムズ、6月16日)。だから次のカンダハル攻撃もうまく行かないだろう、とするのがパキスタン軍の見立てという。
カルザイ大統領は自分の故郷でもあるカンダハルを訪問し、部族長を集めた集会で「タリバンへの協力をやめよ」と強く訴えた(6月13日)。
「なぜなら次の米軍、NATO軍のカンダハル攻撃は枢要な作戦である」。カルザイ政権に協力的な部族がいる一方で、昼はカルザイ、夜はタリバンと使い分けている部族が夥しい。
パキスタンが米軍に全面協力をしぶる理由とは、「米軍は撤退する。いずれ。しかしそのあとの治安はパキスタン軍が責任を担うのである」とするためだ。
したがって米軍がパキスタンに強く要請している「つぎに北ワリジスタンへの攻撃」をパキスタンは延ばしにのばしている。
米側にしてみれば「この兵站ルートをつぶさない限り、米軍の次の目標であるカンダハル攻撃はうまくいかない」。
かくて「夏に予定されているカンダハル総攻撃は、北ワリジスタンがタリバンの本丸であり、この兵站の根幹をおさえない限り作戦にも限界があるだろう」((シャラリ米国国防大学教授)。
両軍の疑心暗鬼、お互いが思惑を別個の「共同作園」、はたしてうまくいくか。あるいはオバマ政権の命取りになるか?
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
5786 米国人がビン・ラディン暗殺をねらって越境寸前 宮崎正弘
宮崎正弘
コメント