■根底に対アサド不信 米ウォール・ストリート・ジャーナル
トルコが国境を接するシリアのクルド人住民の多い町での戦闘参加に、同国政府は後ろ向きな姿勢を示し、米国政府はこれを厳しく批判している。イスラム過激派「イスラム国」の台頭への対処をめぐる両国間の危険な亀裂が浮き彫りになっている。
イスラム国は、トルコとの国境沿いにあるシリアのアインアルアラブ(クルド語でコバニ)とその周辺地で3週間を超える戦闘を繰り広げ、9日にはシリアのクルド人部隊から同地域を奪取することにさらに一歩近づいた。またアインアルアラブの当局者によると、同日夜までにイスラム国の部隊は、2日間で19回に及ぶ米国主導の空爆があったにもかかわらず、アインアルアラブの約4分の1を掌握したという。国境の向こうにはトルコ軍の戦車部隊が配置されている。
シリアでの戦術をすり合わせるため、オバマ政権の対イスラム国問題の特使として海兵隊のジョン・アレン退役大将が9日、トルコを訪問し政府高官らと協議した。
イスラム国が今夏にイラクへ急速に侵攻したのを受け同組織に対する空爆を開始した米国は、この地域での一番の敵はイスラム国と考えている。
しかし、シリアのアサド大統領を失脚させることで自身の国際的地位を確立することを狙うトルコのエルドアン大統領は、イスラム国台頭の根本原因はアサド体制の残酷さにあると考えている。このため米国とその同盟国に、イスラム国との戦いと同程度の気迫をもってアサド体制と戦うよう迫っている。
米国側にこうした戦略転換を求めるトルコの当局者は「われわれはこの問題について、一歩もひかない」としたうえで、「アサドがトップに居座り、たる爆弾や化学兵器の使用が続く限り、さまざまな勢力がどんどん加わる悪循環が継続する」と指摘した。
トルコはアインアルアラブで攻撃されているシリアのクルド人部隊にもほとんど親近感を持っていない。これらの部隊は、米国がテロ組織として分類するクルド労働者党(PKK)と連携している。PKKは現在トルコ政府と和平協議をしているが、30年以上にわたってトルコが戦ってきた相手だ。そのほとんどの期間で、シリア政府はPKKを支援してきた。
オバマ政権の前シリア問題特別顧問で、現在はシンクタンクの大西洋評議会で上席フェローを務めるフレデリック・ホフ氏は「シリアにおけるイスラム国の脅威について、米国とトルコは根本的に考えが違う」と述べた。
両国の政府関係者はアインアルアラブがイスラム国の手に落ちるまで間もないと警告している。
この町は500マイル(約800キロ)を超えるトルコとシリアの国境沿いにある、クルド人が多く住む町のなかで最も規模が小さく、イスラム国はここ数日間、着実に町に迫っている。
クルド人部隊は米国主導の空爆が防衛に役立っていると話している。
しかしアインアルアラブの地元職員イドレス・ナサン氏は、イスラム国が9日、町の中心部を制圧する戦いに再び力を入れたため、町中で戦闘が続いたと述べた。
トルコ政府は戦車をはじめとする装甲部隊をアインアルアラブから国境をまたいだ自国内に待機させる一方、議会はイスラム国に対抗するため戦争遂行権限の拡大を求める政府の要請を最近承認した。
しかしトルコのチャブシオール外相は9日、トルコ軍によるアインアルアラブ防衛のための地上戦はイスラム国の前進を止めることはないだろうと述べた。
同外相は「トルコが独自に地上戦を行うことを期待するのは現実的でない」とし、トルコは同盟国と話し合いを続け、行動を起こすことで合意ができれば「自国の役割を果たす」と述べた。
トルコのこの逡巡(しゅんじゅん)姿勢についてアナリストは、理由の一部はイスラム国がどう反応してくるかに対する恐れだと分析している。
トルコとシリアの国境地域の多くをイスラム国は支配しているため、テロ攻撃を一斉に仕掛ければ、トルコにとって重要な観光産業に打撃を与え、エルドアン政権を大衆が受け入れている理由である経済発展に危機をもたらすことができる。
トルコの地元紙のコラムニスト、オズグール・コークマス氏は「人々を震え上がらせるのがイスラム国のやり方だ。イスラム国が襲ってくると聞けば、皆ただ逃げるだけだ」と言う。さらに「爆弾を積んだ車などで反撃する能力をもっている。こうしたテロ行為は過去にもあったうえ、またいつ起きてもおかしくない。これは現実的な問題だ」と述べた。
一方、トルコのクルド人たちは怒っている。
アインアルアラブでトルコ政府が何もしない事に対する3日間の抗議行動により、国内で少なくとも26人が死亡。いくつかの市では当局が戦車を出動させ、外出禁止令の発動に追い込まれた。
エルドアン大統領は9日、死者に対する「深い哀悼」の意を表したが、一方で抗議行動をアインアルアラブ危機への反応というより国内平和と安定を乱すものだと位置づけた。
トルコ政府のこの問題をめぐる消極姿勢は決して驚くものではない。
クルド人部隊は基本的にはトルコの古くからの敵であるPKKのシリア側の分派だからだ。PKKとその指導者のアブドラ・オジャラン受刑者はシリア政府が育てたようなものだ。
このシリア政府によるPKKへの支援は、1998年にはトルコが国境に兵力を集結させ、軍事介入も辞さない姿勢を示す事態にまで発展した。
現在はトルコの刑務所で服役中のオジャラン受刑者は昨年来、エルドアン政権と和平交渉に臨んでいるが、PKKは依然潜在的な危険を持っている。
トルコの一部の政治家はイスラム国よりPKKの方がより大きな危険であると依然主張している。
エルドアン氏の率いる政党の主要メンバーで副首相を務めたことのあるエムルラ・イシュラー氏は今週、PKKはイスラム国よりも残忍だとツイッターに書いて騒動を起こした。同氏はその後、この投稿を削除した。
こうした歴史を考慮すると、アインアルアラブでPKKと関係の深いシリアのクルド人を直接的にも間接的にも支援することはトルコ政府が軽々しくできることではない。
紛争解決のための提言を行うシンクタンク、インターナショナル・クライシス・グループのトルコ・キプロス担当ディレクターで、ウォール・ストリート・ジャーナルの元特派員だったヒュー・ポープ氏は「現在、どこの国であろうと、自分たちが戦っている勢力に対し、対戦車兵器を供与するのは不可能だ。和平交渉をさておいてアインアルアラブ問題を優先するというのは本末転倒だ」という。
トルコはいかなる支援も供与する前に、シリアのクルド人から、同国内の穏健な反アサド勢力に協力することを誓うよう求めている。
ワシントン近東政策研究所でトルコを担当する責任者は「クルド人はこれまでずっとアサド体制との戦いに明らかに参加してこなかった。トルコはクルド人が参戦することを望んでいる。というのもPKKのメンバーは戦闘能力が高いと知っているからだ」と話す。
しかし、アインアルアラブでシリアのクルド人が敗れれば、トルコにとって、単に米国の怒りを買うという意味だけでなく、大きな代償を払うことになる可能性がある。同地区をイスラム国に奪取されればPKKは和平協議から離脱すると警告しており、そうなればエルドアン氏の長年にわたるクルド人との対立解消努力に取り返しのつかない打撃となるからだ。
また、アインアルアラブ危機は、トルコの同地域での主要な盟友であるイラク北部のクルド自治政府との関係にも軋みを及ぼしている。
左寄りのPKKと、イラクの親米派クルド指導者は長い間ライバル関係にあるものの、イスラム国に対しては結束して対抗している。シリアのクルド人は今夏、イスラム国がイラクのクルド人地区へ侵攻するのを防ぐのに不可欠だった支援を供与した。
イラクのクルド人アナリスト、カーレ・サリ氏は「イラクのクルド人は一般の間でも、今はPKKがクルド人の保護者であり、トルコはイスラム国に加担しアインアルアラブが陥落することを望んでいるとの見方が広まりつつある」と話した。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
17429 トルコ、シリア要衝地での軍事関与に後ろ向き 古澤襄
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