82 カギの隠れたニュース 渡部亮次郎

東北の県境の町では子供2人殺し事件で町の評判はガタ落ち。そこで風評だから新聞やテレビは表には出さないが、地元の人たちは初めから「商売」の邪魔だから娘も殺したべ、と言い合っていたようだ。
んだ、警察も客だったんじゃねが。んだがら事件を事故にして封印しようとしたのだべ。なんたて、玄関におどごの靴あったら、家さ入って来るな、といわれていて、夜でも外で待っている幼い娘。気の毒でみていられねがったな。
「商売」の事件のキーワード(かぎ)は「○○」。「次々に男をくわえ込んで自宅に連れ込むんだもの、娘は邪魔になる。まして別れた亭主とのこどもだもの、可愛くないときだってあるべさ」となれば殺人の動機は露呈していた。
だが、人々は見て見ぬふり。集落同士ならいくらでも喋るが、それ以外の人からは尋ねられても絶対語らない。都会での捜査とは違った壁に阻まれるわけだ。住んで見なければ理解できない。
そこで記者は一種の「色めがね」を被せて考える。この場合はキーワード。直訳すれば「鍵となる言葉」だ。この事件の場合は、犯人が実は○○をしていたのではないかとの疑いで言動を洗いなおすことである。
関西で若い男が小学校に刃物を持って侵入し、何人もの児童を殺傷する事件があった。東京の感覚では、精神異常を疑うが、関西では「△△」を疑う。だが口は絶対つぐむ。ニュースには絶対「△△」は出ないまま犯人は望んで刑死を早めた。
金大中事件の政治決着を田中政権がなぜ急いだか。これは証拠はないが大統領の犯罪に違いない。だとすれば現金で決着を図るだろうと大阪で見ていたら、その通りになった。あれこれ法律や正義や面子を持ち出して騒ぐと、韓国の政権そのものが危態に瀕する。
そこでこの事件のキーワードは「現ナマ」。日本で生まれて財を成し、朴政権の財布と言われていた在日韓国人が用立てたのではないか。現ナマの袋は2つあり「一つは奥さんに」といったら総理は「そうだ、1つは外務大臣にだな」と答えた。これを知っているものといないものとでは、解説記事に雲泥の差が出る。
取材に当たって、こういうメガネを何枚も用意して政治家を観測しろと教えてくれたのは若い頃の島桂次記者(のちにNHK会長・故人)である。「角栄が福田に勝つものは学識ではない。それは現ナマと人情だけだ。そうやって個々の政治家を洗ってみろ。結論はすぐ出る」。確かにその通りだった。
今回、福田康夫は安倍の対立候補足りうるか。識見が邪魔して立てない。福田内閣で大臣秘書官同士で働いた仲だから、他人よりは康夫さんを慮る気は強いから、彼は元から立つ気は無かったのだと思い続けた。
キーワードは「面子」である。なるほど中国、韓国とのを関係で靖国参拝不要の主張はインテリの自分としてはいまさら翻すことはできない。しかし、だからと言って反安倍勢力に乗り、森派を割って出ても勝ち目があるか。
ない。だから出ない。初めから決まっていた話だ。だから「私が出ると言いましたか」との科白も予測できたのである。マスコミは証拠もなしに「出るだろう」と決め、終いには外国に行くことが決意の証拠などとワケの分らぬことを流して、読者、視聴者をだました。
福田康夫の性癖、置かれた立場、旧田中派への支援要請の屈辱等々を考慮すれば、立候補の可能性は初めからゼロである。しかも勝てない勝負は絶対しないという知識人としての含羞がある。ムードや煽てに乗るようなバンカラでもない。立つといいましたかは決まっていたのだ。
先輩は「政界一寸先は闇」という嘗ての副総裁川島正次郎の言葉を引いて諌めてくださる。その通りだが、だからと言ってどこかのTV局のように「不透明」を連発していたのでは、オアシを取れない。
おそらく学識豊かな記者は、来年の参院選で敗れる安倍政権を想定しているだろう。しかし小澤敗戦と言うメガネも用意すべきだ。例えば、フランクフルト在住のジャーナリスト クライン孝子さん
7月半ばに一時帰国し、こんなことを言っておられる。
<外国人特派員協会にて小沢一郎民主党代表の記者会見があり途中まで出席いたしました。途中で中座したのは、新味がなかったからで、これでは民主党、国民に見放されるのではないか、そんな感想を持ちました。
反対のための反対では、一昔前の社民党と同じで、かくも世界情勢が変革しているおりに、こんなことを発言していて、日本のリーダーとしての才覚はない。真の政権担当としての責任とセンスを疑ってしまいました。
イスラエルとレバノンとの戦争状態が、何を意味するか、この紛争と、北朝鮮によるミサイル7発との関連性を見ればその回答はおのずとでてくるはずなのですが。小沢代表はその情勢分析がまだ出来ていない、そう思いました!>
川島正次郎の警告は政局の先を断定的に見るな、ということだろう。つまり色眼鏡をいくつも用意して、流動的に変化する人心の中に必ず存在する「原則」を掴み取れと諭しているのではないか。〔文中敬称略。2006・07・27〕

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