7981 ビンラディン殺害後、最大の裨益者は中国だった 宮崎正弘

パキスタンは対米関係に冷淡化、中国との同盟をより強固にビンラディン殺害以後、ギラニ首相はただちに北京を訪問した。四日間の歴訪。中国は熱烈歓迎。そしてパキスタンへ最新鋭戦闘機の供与。
パキスタン軍の装備は八割方が中国製。空軍260機の戦闘機は中国製。イラスマバードを訪問した米国外交評議会の幹部に向かって、パキスタン高官は公言する。「米国との関係は中国への比重に代替されるだろう」と。
このあけすけな態度変更は次のシナリオが見えているからだ。第一に米国はアフガニスタンから撤退に向かう。けっきょく、タリバンを退治できず、ビンラディン殺害をもって、当面のテロリスト戦争は一段落したという総括のもとに、予定されたカンダハル総攻撃は行われない。
第二に米軍の兵站ルートは80%がパキスタンのカラチ経由。この付近にいくつかの兵站拠点があり、毎日およそ500台のトラックが輸送部隊をくんでアフガニスタン各地へ物資、兵員を届けた。アフガニスタンにおける米軍ならびにNATO基地は四百数十。
この後、NATO軍およそ五万、戦争下請けおよそ五万。米軍十万。合計二十万余の兵力、物資の撤退が三年程度で片付くとなれば、パキスタンは以後の対米関係が激変することも目に見えている。
第三に置き去りにされるカルザイ政権だが、欧米の期待とは裏腹に民主主義は実現されず、かわりに腐敗にまみれたアフガニスタン高官の麻薬、密輸取引がはびこり、たとえ次にカブールに権力の空白を迎えようとも、欧米はおそらく死活的な関与をしないだろう。となると、誰が、そのときに真空を埋めるか? インドであるはずがない。とすれば?
▲この状況変化を北京から眺めるとどうなるか?
第一に来月、カザフスタンで開催される上海シックス(SCO)からパキスタンが「正式メンバー」として加盟する(アルジャジーラ、六月六日)。
第二にグワダール港である。巨大なバースが完成し、ちかく港湾を管理運営してきたシンガポールの港湾会社は契約切れとなる。中国企業が代替することは決まっている。
グワダールは深海、原油タンカーが横付けできる工事は終了し、これでホルムズ海峡へ僅か五百二十キロ、西隣がイランという地政学的優位性をもつ、このパキスタン西端の港からパイプラインはえんえんと中国の新彊ウィグル自治区へと達する。バロジスタンン(パキスタン西部)はパイプラインスタン(Pipelinesten)になる。
第三はアフガンルート(千五百八十キロ)のプロジェクトが頓挫していることだ。これはクリントン政権時代からユノカルが交渉を開始し、トルクメニスタンからのガスをアフガニスタン経由でパキスタンへ運び、カラチから各地へ輸出する壮大なプロジェクトだった。支線もインドへ分岐することも決められたが、「アフガニスタンに平和がきてから」工事は開始されるとされた。いまとなれば実現は不可能に近い。
第四にカラコルム・ハイウェイとの連結である。中国の援助でカラコルムと中国をむすぶハイウエィは数十年の歳月をかけて中国が工事を敢行してきた。その北にはアフガニスタンと中国を結ぶ「アフガン回廊」が存在している。
逆に言えば、軍事的な脅威を拡大されたインドはますます西側との外向的絆を強めざるを得ないだろう。かくして地政学的要衝をすべておさえた中国。北京は笑いがとまらない。
杜父魚文庫

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