軍事クーデター、ゴーストシフトなど日本のエコノミストからは聞けない情報満載。はたして日本経済は復活できるのか、多角的にデータを重要視して解析。
<<藤井厳喜『超大恐慌で世界の終わりが始まる』(日本文藝社)>>
本書には情報通の藤井さんが世界中に張り巡らしたアンテナから、日本に伝わっていないか、或いは当事者以外に知られていない貴重な情報が満載されている。
のっけからウォール街の内部情報が飛び出してくる。
――バンクオブアメリカの「CDSスプレッド」を単純化して言えば、『倒産危険指数』である」。つまり「バンクオブアメリカが経営破綻に近づいている」
――世界経済は「南北関係がまったく逆転する。つまり先進国と途上国の経済的上下関係が無意味になるどころではなく、むしろ逆転してゆく傾向になる」
――野村は金融危機の際にリーマンを買収したが、「このヨーロッパ部門がとてつもない不良債権を抱えていることが明らかになった。野村の純金融資産は約二兆円と言われているから、その半分がヨーロッパにおける投資の失敗で経飛んでしまうことになる」
――「ユーロとは呼称を変えたマルクに他ならない。実態はマルク、つまり『ユーロの誕生自体がドイツ第四帝国の誕生』である」
――「中国では本格的な内戦に近い騒乱状態が起きるのが、おそらく2013年。だから軍事クーデターの懼れがある」。
これ以上、本書の中味を紹介をするのはやめよう。貴重な情報は本書に当たられるべし、である。国際金融情報とは日本のエコノミストやアナリストの場合、よく指摘されることは『戦略性』の欠如である。
だが日本人の情報不足の基本にあるのは軍事情報への無理解、中国などのよこしまな国をも善良に理解してしまうために起こる、日本特有の中毒症状だろう。
冷厳な現実をつめたく突き放してみる視座が日本の学者、エコノミストに欠けている。
藤井さんは米国留学も長く、ワシントンへの食い込みも深く、人脈が豊富なので、アングラ情報も集めやすい。だから「面白い」情報が並ぶのだ。
もうひとつおまけをつけると藤井さんは中国の偽札事情にも触れて、これはものつくりの際の「ゴーストシフト」の発想から来ているという。ゴーストシフトとは、有名ブランド品をたとえば、1000個つくると、おなじラインで内緒で同じモノを500個、かってにつくり、それを闇市場は流す。だから本物と偽物に変わりがない。中国の偽札も、この原理で動いている。
さて本書で「2013年、中国のクーデター」説が演繹されているのだが、評者(宮崎)の予測と期せずして一致している。
この場合の「軍事クーデター」は普遍的なそれではなく、つまり共産党打倒ではなく、共産党支配をより強化にするクーデターである。
政敵をどちらかが追い詰め、再起できないほどに追い込むには軍を完全に掌握する必要があり、北京に近い軍の二個師団ていどを動かす軍人と共産党の誰か、あるいは一派が組めば、容易に可能なのだ。
いや、嘗て四回も五回も同様な軍事クーデターは中国で起きている。じつは中国人の楊中美も、すでに二年前からおなじ発想をしていて、そのシナリオに集中した本を上梓している。しかも、当該書籍を評者も詳しく書評をしたこともあるので、下記に『参考情報』として掲げることにした。
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参考資料
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(以下は弊誌2010年12月28日号(通巻3174号)からの再録です。
<<楊中美『2013年 中国でクーデターが起こる』(ビジネス社)>>
軍の強硬派はかつて熊光偕が代表し、反日の強がりと中華思想的な軍事論を展開したものだった。ついで「核の先制攻撃も辞さず」と豪語したのは朱成虎、そしていま軍の最強硬派は劉亜洲である、と筆者はいう。著者の楊中美といえば天安門事件前後から日本で自由・民主・法治・人権を訴えて雑誌『民主中国』を主宰された。北京のいう改革なるものの欺瞞、偽善性を真っ向から批判してきた。
以後、江沢民、胡耀邦、朱容基らの伝記に挑み、歴史的視座を広げてきた論客である。中国国内に信頼できる、数多くの情報アンテナを広げ、機密性の高い情報を独自に収拾して分析されるから、その迫力と迫真性に定評がある。
楊中美は、習近平は派閥均衡、八方美人型で各派のバランスを重視するため軍ににらみがきかなくなり『一触即発』の時代をむけることになろうから軍事クーデターの可能性が高まるだろう、とする。
そんなまさか、と考えがちな読者諸兄! 過去三十年だけでも中国の政権は軍事クーデターか、それまがい、あるいは軍の行動に拠って政権がかわっている事実をここで思い出しておく必要がある。
楊中美は指摘する。
「1966年、毛沢東が文化大革命を起こした際には、林彪(国防部長)の直系部隊が北京に進駐して劉少奇ら反対派の警護員の首をすげ替え、完全に武力で政局をコントロールした。
1976年10月6日、葉剣英(軍の長老)、党中央8341警護部隊を率いる王東興は華国鋒を擁し、武装官邸クーデターで江青ら「四人組」を逮捕して政権を握った。
1979年、トウ小平は中越戦争の発生に乗じて軍を支配下に置いた。そして80年6月の華国鋒の東欧訪問の際、警備員を交替させ、帰国後に華国鋒の行動の自由を奪った。最終的に80年末の中央工作会議で華国鋒を『自発的』辞職に追い込み、党の実力者となった。
1989年6月の天安門事件では、学生の民主化運動をめぐって党内の上層部も、李鵬ら保守派と趙紫陽ら改革葉に分裂した。トウ小平は最終的に数十万人もの大群と戦車を動員して天安門の学生運動を鎮圧し、趙紫陽を解任した」。
そう、まさしく軍が動けば、中国の政局は激動する。(中略)
なぜクーデターの可能性があるか。ジニ係数で中国は「中国社会科学院のデータでは0・485から0・5」だと筆者はいう。貧部の差の拡大と、退役軍人、警察の冷遇がストを呼び込み、反腐敗と政治改革を求める声が高まり、それらを軍は認識できているとする。
第一のシナリオは『キルギス型』で民衆蜂起に軍が動かない。
第二のシナリオは「タイ型」で体制維持のために軍事クーデターがおこり、それを民衆が支持するという。
杜父魚文庫
9563 書評「超大恐慌で世界の終わりが始まる」 宮崎正弘
宮崎正弘
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