9631 「九月代表選で再選じゃーないの」とお姉様  古沢襄

「どうしているの?上京して事務所に遊びにいらしゃい」
保守政界の女帝・辻トシ子さんの一言で、目が覚めた気がする。九十二歳の彼女は毎日、東京・虎ノ門の事務所に出勤して、千客万来の応接をこなしている。最近は若い民主党の代議士たちと赤坂の料理屋で夜の「辻学校」まで開いている。

八十歳になった私は、棺桶を引きずった気分で毎日を過ごしている。
「若いのに何を言うの!」と一喝された。九十二歳のお姉様の一喝だから恐懼して聞くしかない。それにしても、張りのある、艶やかな声が衰えを知らない秘密はどこにあるのだろうか。
「辻学校」をまた開いたと聞いて、ほぼ半世紀前、昭和四十四年に当選してきた自民党の一年生議員たちを集めて、赤坂のたい屋で「辻学校」を開いていたことを思い出した。「鯛づくし」で知られたたい屋だが、私たちもご馳走になった。鯛茶漬けが懐かしい。
辻さんは五十歳になる少し前。虎ノ門に初めて事務所を設けていた頃の話である。
写真がある。小沢一郎、羽田孜、加藤紘一、林義朗、塩崎潤、唐沢俊二郎、瓦力・・・皆、若い。自腹を切った辻さんの前で正座して杯を傾けているのが微笑ましい。国会議員の心得をお姉様から諭されて、酒の味を楽しむ余裕がない顔が並んでいる。あの小沢氏が緊張した顔で正座していた。
「小沢はどうなるの」と聞くと、お姉様は「さあーね」とつれない。
「野田は・・・」と重ねて聞くと「九月代表選で再選じゃーないの」ときた。昨年二月に会った時に「菅の後は野田よ」と予言したので「まさか」と思ったのだが、辻さんを囲む大パーテイで野田財務相が挨拶に立ったのには驚いた。
吉田、鳩山、池田、佐藤、田中、宮沢、村山と政権中枢にフリーパスで出入りできたのは、戦後政治の裏面史で隠然たる力をふるった辻嘉六氏の一人娘ということがあったのだろう。様々な辻嘉六氏に対する悪評がメデイアで取り沙汰されたが、辻嘉六氏が亡くなった時には借財だけが残っていた。
集めたカネは保守政治に注ぎ込んでいたから手元には残さない。散じる性格は一人娘にそっくり受け継がれている。だから政界情報は誰よりも速く、正確である。
「最近の政治家に欠けているのは”散じる”哲学なのよ」
どうも小沢氏のことを言っているな、と思った。四億円も自宅にため込むことは、辻学校では教えていない。散じることで、より多くの見返り、つまりは支持者を広げるのが辻哲学。
「手元に残してはダメよ」とは言わなかったが、人脈を広げる面では小沢氏は欠けている面がある。むしろ小沢氏を慕った政治家が”小沢離れ”をみせてきた。結局は辻学校で何も学ばなかったということだろうか。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました