「亡党亡国」をなんとしても避けたい習近平政権の性格は「穏定の維持」。何を維持するかって? 太子党の利権です。ほかに何かありますか?
<<鳥居民『それでも戦争できない中国』(草思社)>>
鳥居民氏といえば、独創的な発想と独自の情報源から一風変わった中国を語る市井の評論家。おもえば評者(宮崎)には、この系列の人たちと付き合いが多い。
柴田穂氏は文革のとき真っ先に北京を追われた。その後、異色の中国論を書き続けられた。出版社「浪曼」社に評者がいたおり、氏の書籍を編集した。打ち上げは銀座から新宿へ回った。カラオケの名手だった柴田さん、その後、数年間の闘病、告別式は産経の社葬で護国寺だった。
桑原寿二氏とは、氏の主宰される研究会によく通った。いぶし銀のような風貌から渋い分析に定評があった。通夜は郊外の自宅だった。その後、産経は桑原さんの論文集を発行し、いまも手元に大切にしている。歴史観がどっしりと落ち着いていて、それでいてユニークで着実な観察眼で中国を見ていた。
鳥居民氏はこの系列。そのうえ筆名は、村上一郎氏がつけたという。その由来を知りたいと思った。
鳥居氏とは二回しか会ったことがない。一回目はまだ草思社が新宿中里あたりにいた頃、M編集女史と一緒のところを江戸川橋のプラットフォームでばったり。二回目は正論のパーティだったから品川のホテルで・・・。
いずれも鋭く、世の中の中国評とは異なった見解を述べられたことを鮮烈に思い出す。氏の分析とは深くかさなるところが多く、二回しか会っていないのに重層なつきあいと錯覚した。
いずれゆっくり飲みましょうと言って、そのまま氏は冥界にたたれた。本書の改題を執筆された中嶋峰雄氏も、鳥居さんの逝去からまもなく急逝された。だから、本書は遺言である。
さて本書は誰よりも現場の権力闘争の動きを人物本位に捉えている。
党指導部の強迫観念は「亡党亡国」をいかに回避するかにあり、毛沢東的な軍事冒険主義にうってでるシナリオは考えにくい、とされる。
要するに本書はスーパーリッチが冨を寡占する国と成り下がった中国は、もし矛盾を糊塗しようと欺瞞的な戦争に訴えたら「亡党亡国」になることを百も承知である。本書でいうスーパーリッチとは幅広く利権と繋がって巨大なビジネスを展開する太子党の人々を意味している。
いま習近平が真実に直面するディレンマを、どう克服できるか。現在の中国は絶対的に穏定だけが望みなのである。その理由を体系立って述べられている。論理も論調は淡々としていて、かえって味わいがある。
要諦は次の一節にもある。すなわち、鳥居氏はかく説かれるのである。
まだ院政が続いているつもりの「江沢民がその力を失ってしまえば、胡錦濤と習近平はもっとも切実な問題に取り組むことができるのではないか。
もともと自分が立つ基盤が薄く、狭かった江沢民は軍に足場を築こうと願い、それこそ江の海軍をつくろうとして、結局は三軍の将軍たちの歓心を買うために軍事費を増やしつづけた。
だが、百人の太子党は江沢民と違う。かれらは全社会の代表的組織である基幹産業の指導者である。かれらは軍部を籠絡するために軍事費を増やしつづけることが自分たちの利益とはならず、不利益となると考えるはずである」。
すなわち軍事冒険主義にうってでたら、経済活動はメチャクチャになり、社会不安は爆発的に動揺して社会の基幹を揺るがす。党の延命どころか、党は解体、崩壊の危機に直面するだろう。
杜父魚文庫
12244 書評「それでも戦争できない中国」 宮崎正弘
宮崎正弘
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