■歴史は指導者と英雄が動かすのであり、大衆が歴史を作ることはあり得ない 戦後の歴史家は不毛の解釈を持ち込んで英雄を全部抹殺した
<福田恒存『人間の生き方、ものの考え方』(文藝春秋)>
殆ど福田氏の作品は全集に収められ、漏れているものはないと考えられてきたが、講演の記録が残っていた。
昭和37年から50年にかけて国民文化研究所が阿蘇で行った学生合宿に四回呼ばれた福田氏は、そこで学生達と真剣に対話している。本書はその四回の講演録である。編集した国民文化研究所に寄れば、いずれも事後に福田氏の朱筆が入っているという。
「秩序を守るために当然冒さなければならない悪というものがある。それに耐えてゆく、それが思想というものだ」と福田氏の箴言に満ちあふれている本書は、はじめて日の目を見た講演録である。
評者(宮崎正広)も学生時代に福田氏の講演は何回か直接聴いたばかりか、二回ほど講演に来ていただいた。辛辣なジョークや箴言に溢れていて、平明な言葉なのに、中味はつねに論争的で、いかに解釈してよいものか、迷ったことも往々にしてあった。
たとえば福田氏はこういうものの言い方をされる。
ものごとを『解決』したいと思わない方が良い、と。
「混乱の姿というものが本当に私たちの目に映っていたなら、解決はそれぞれの人に応じて当然起こって来るはずであって、混乱の自覚がないのにいきなり解決の道を説いたり、また解決のために一所懸命に努力したところで、ますます混乱を重ねるばかりだと考えます。だから大事なことは解決を急ぐことではなく、混乱している現実を誰でもがその人なりにはっきりと見極めることだ」
先に『解決』の道を示す社説を得意になって鼻を鳴らしながら偉そうに書く某大新聞の論説委員らに訊かせたい。政治家は耳の垢をほじり出して、澄ませ。
この言を援用して言えばウクライナ問題の解決を急ぐ必要はない。
ロシアとウクラナイナの当事者の力関係と指導者の力量で、ものごとは自然と流れが出来るのであり、オバマが口先で介入し、ロシアが欧米の言うことを訊かないとばかり制裁を強めるのは混乱に輪をかけているような醜態であり、メルケル独首相はそれが分かっているから、モスクワとワシントンをいったり来たりしているのだ。
道を説くのは止めにしたら如何かと福田氏が、もしいま生きておられたらそう言われるに違いない。
歴史論争についても、マルクスにかぶれた左翼史家ばかりか、ウルトラナショナリストヘの警告もなされる。
「歴史はすでに存在してしまったものです(中略)。ところが日本の歴史は既に存在しているということを、今の歴史家たちはどうやら忘れている。つまり歴史は親みたいなもので、私たちは日本の歴史の子供なのであります。その子供の立場から過去の歴史を裁いていこうというものの考え方は既に間違っている。歴史をして私たちに仕えしめてはならない」のである。
古代から中世にかけての歴史を、マルクス主義とか、階級闘争とか後智恵のプリズムでああだこうだと言っても始まらない。左翼の歴史家らは根本の間違いに気がついていないというわけだ。
▼革命を一般大衆や人民蜂起で成立したという解釈は戯言である
またこうも言われる。
(革命とか維新とかが)「本当に民衆が目覚めて立ち上がったなどという馬鹿なことは今まで一度も行われたためしがない。(中略)時代の先覚者、指導者によって歴史は動いていく。ところが、戦後は指導者によって歴史が動くことを全部否定して、大衆が歴史を動かしたという風に無理に解釈しようとした。従って、一時いわれたように、人間不在の歴史、英雄を全部抹殺した歴史が教えられました」
いや、戦後のことではなく近代の日本がそうだったのだ、と福田氏は続けてこう述べられている。
「日本は明治以来近代化というものを非常に大きな価値に祭りあげるという過ちを犯し続けて来ました。これも私たち後進国の歴史的必然性であり、宿命的なことがらであると思います。先進、後進だけでものを考えることが殆ど日本人の価値観になってしまったと思われる(中略)、戦後はそれが極端になり、殊に唯物史観に彩られた」
近代化信仰について辛口の揶揄でもある。
そして、そうした近代史絶対史観ともいえる考え方は、近年の「人命尊重」イズムという軽薄な、馬鹿げた風潮になり、日本人の脳幹を冒した。病膏肓に入る、とはこのことで「人命は地球より重い」とダッカ人質事件がおこり、また今回も『イスラム国』によって執られた人質に巨額の身代金を支払う愚考があった。
諸外国が日本を侮蔑するのは、このような非現実的な態度への反発が含まれているのではないのか。
人質犯罪は殺人以上に凶悪な犯罪であり、「もし彼らの要求を入れて人質の命を助けるために、明らかに犯罪者として逮捕している人間を釈放するということになれば、国家、政府の権力が彼らよりも弱いということを立証する」
しかし福田赳夫とちがって政治家の資質に優れた安倍首相は「イスラム国」のテロリストに屈しなかった。
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