2281 「日暮硯」松代藩の財政再建(7) 翻訳:平井修一

恩田木工「年貢を未進(未納)している者は来ているか。その方どもはなぜ未進しているのか。田地というものは、年貢を納め、諸役を勤め、その上で妻子を養い楽しみ、家族が暮らせるほどに貯えておくものである。
蒔くべきときに蒔き、きちんと養い、時節を違えずに耕作すれば、年貢を納められないということはないはずだ。それにもかかわらずに未進するのは、家業をおろそかにし、人並に耕作もしないからである。年貢を上納するほどの収穫がないとは不届き千万である」
●年貢の未納、前納を整理する
「先納、先々納する者さえいるのに、未進するとは言語道断、不届き者である。憎き奴であり、切り刻んでも飽き足らぬ。役人はなぜこのものどもに未進をさせているのか。骨を削ってでも取り立てるのが筋だろう。未進をさせている役人は大ベラボウの憎き奴である」
このときの木工の形相は二目と見られぬほどの恐ろしさで、顔を上げたものは一人もいなかったという。
「ま、かく言うのは理屈というものである。殿様の財政がままならぬことを当然に承知していながら、御用金を出し、先々納する者さえあるなかに、未進するというのはよくよくの貧しさであろう。
その方どもも人並に上納したく思っていても、不幸せにあったり、永く病気になったり、不慮の災難にあって、耕作が十分できずに収穫が少なかったのであろう。さぞさぞ難儀し、はなはだ不憫千万、気の毒である。
役人もその方どもの困窮をよくよく知って、未進を容赦したものである。これは役人の仁政というもので、ありがたいことである。
であるのならこれ以上『未進分を納めよ』と申しつけたところで、元来がないのだからどうしようもない。取らなければお上の損、納めなければその方どもの得だが、今日までの未進分はもう上納しなくてよい。そう心得よ。
その代わり、当年貢(今年の分)は一粒でも未進はならぬ。必ず納めるべし。万一未進する者があれば処罰するから、そう心得よ。たとえ裸になっても上納しなさい」
一同は了承した。
木工「先納、先々納をした者には、どうにかして返済したいと思うが、皆知っているように原資がないので返済できぬ。したがってこれまでの先納分はお上の取り得にし、その方どもは出し損にしてくれよ。これは皆への無心である。得心してくれるか」
一同「かしこまりました。今後、先納、先々納は申し付けないと先ほど仰せ付けられましたので、これまで納めた分は一粒もお戻しにならなくて結構です」
木工「得心してくれて、千万過分に思う。もうひとつ無心がある。これは今日すぐに返答はできなかろうから、村へ帰ってとくと相談の上返答してくれよ」
恩田木工の「もうひとつ無心」はなにか。(つづく)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(9月2日現在2233本)

コメント

タイトルとURLをコピーしました