4445 またぞろ流布される「金正日影武者説」 古沢襄

独裁者は暗殺を怖れるから、そっくりさんの影武者を用意している説が絶えない。欧米誌に七人の影武者を用意した北朝鮮の金正日総書記のことが、写真入りで出たこともある。だが真偽のほどは分からない。合成写真だったという見方もあった。
韓国の朝鮮日報は今月8日に平壌を訪問したビル・クリントン元米大統領が面会したのは「偽・金正日総書記」だった可能性がある、という日本の大学教授の主張を紹介した。(米ABC放送電子版)
情報鎖国の北朝鮮だから、こういう臆測が流れる。
ここで昨年夏以来、北朝鮮から漏れてきたリーク情報を復習してみよう。最初は韓国のネット情報で金正日総書記が暗殺されたという怪情報が流れた。そして後継者に三男の金正雲が浮上していると伝えられた。(聯合ニュース)
暗殺説は間もなく消え、今度は金正日総書記の重病説が取り沙汰された。各メデイアが金正雲のプロフィールを追って猛烈な取材合戦。
聯合ニュースは、金正雲を強く推しているのは金正日総書記の秘書で事実上の四人目の夫人といわれる金玉と指摘。さらに2004年に亡くなったとされる第三夫人の高英姫が、死の床で三男の金正雲のことを金玉に頼んだという情報を伝えている。北朝鮮軍部には金正雲を推す空気が強いという説も出た。
これらのリーク情報は金玉秘書・第四夫人と、それを支持する若手軍人とみるべきだろう。
これに対して米情報筋は懐疑的であった。日本もすぐには乗っていない。むしろ金玉第四夫人は金正日総書記と故成惠琳夫人との間の長男・金正男を競争相手として警戒し、側近を通じて正男と親しい人物を調査、監視させているという情報を伝えている。
韓国情報筋も正男が北朝鮮東部の清津や羅先地区の行政施設や工場を相次ぎ訪問、近くの複数の軍部隊も視察したと伝えた。この視察には、金正日総書記の実妹・金敬姫の夫である張成沢が同行、軍幹部らの証言では、視察中、正男は名前を直接表現することを避け、「新星将軍」というこれまで使われることのなかった呼称で呼ばれたという。
これでみると、金正日総書記の重病説をめぐって金正雲を推すグループと金正男を推すグループの対立があったかにみえる。さらに実妹・金敬姫がアルコール依存症で重態となり、金正男がフランスから医師団を連れてきたというリーク情報も流れた。これは金玉筋の情報操作であろう。
しかし間もなく、韓国メデイアには①金正日総書記は1月8日ごろ労働党組織指導部に対し、第三夫人の故・高英姫が産んだ正雲を後継者に決めたと教示を出した(1月8日は正雲氏の誕生日)②正雲氏後継に決定したことで、金総書記の健康悪化説後、金正男派とみられていた張成沢が「後継者の後見人」としての役割も担う見通しだと一斉に伝えた。これが事実だすれば、両者の間に妥協が成立したことになる。
重病説があった金正日総書記も間もなく元気な姿をみせている。これが影武者かどうかは分からぬが・・・。各国の情報筋もリーク情報に振り回された観があるが、金正雲後継で一致している。金正男は中国で「自分は後継者ではない」とメデイアに語っている。
ところが、最近では実妹・金敬姫と夫の張成沢が実権を握った説が有力となっている。
そして第四夫人の金玉が結婚して姿を消した情報が流れた。これもおかしな話ではないか。金正日総書記が健在であれば、金玉を手放す筈がない。
しかし金正日総書記の国内視察にぴったり寄り添っていた金玉に代わって、金敬姫が登場しているのは、各種写真で明らかになっている。また、あれほど騒がれた金正雲の名が出なくなっている。
フレデリック・フォーサイスの国際情報戦争の小説ではないが、ここ一、二年の北朝鮮にはあまりにも謎が多い。ただ金正日ファミリーの中で何かが起こっているのは想像に難くない。
金正日総書記が昨年9月9日の建国60周年式典に姿を現さず、「金総書記が脳卒中で倒れた」との情報が世界中を駆けめぐった数日後に、韓国の中央日報が「金総書記が倒れたのは、正雲が重体に陥ったと聞き、ショックを受けたため」と報じた。この当時に韓国では、正雲が不治の病にかかったとの情報が流れた。金敬姫重体説に代わって金正雲重体説?
これを否定する材料もなければ、肯定する材料もない。金玉の結婚説も本当かどうかは分からない。
言えることは、金敬姫・張成沢が表舞台に出てきたことだけである。金正雲派といわれた北朝鮮軍部の強硬派に代わって、張成沢(朝鮮労働党部長)、姜錫柱(外務省第1次官)、金永春(人民武力相)の三人組が、金正日総書記の周辺をガッチリ固めている様だ。
今の金正日総書記が影武者なら、実妹の金敬姫がファミリーの頂点にいるのかもしれない。分からないことばかりが流布される北朝鮮である。
<米国ABC放送電子版は今月8日、平壌を訪問したビル・クリントン元米大統領が面会したのは「偽・金正日(キム・ジョンイル)総書記」だった可能性がある、という日本の大学教授の主張を紹介した(チョソン・ドットコム11月2日付既報)。
日本で戦国時代の領主だった大名は、戦場に出向く際、危険な状況に備え、顔つきが似た人物を代わりに表に立たせる、という偽装戦術を行った。この代役を、影武者という。
影武者を活用した代表的な武将は、武田信玄。黒澤明監督の映画『影武者』では、妾(めかけ)ですら「偽物」の正体を見破れなかった。それを見抜いたのは、信玄の愛馬だった。映画の筋書きはフィクションだが、武田信玄をはじめとする戦国大名は、実際に影武者を活用していたという。
危険な状況下で主君の代役を務めるという物語は、韓国の歴史にもある。西暦638年、使臣として唐に向かった新羅の金春秋(キム・チュンチュ)は、高句麗軍に捕まった。そのとき、随行していた温君解(オン・グンヘ)が金春秋になりすまし、代わりに死んだ。高麗の太祖・王建(ワン・ゴン)も、927年に八公山の戦いで後百済に大敗して包囲されたとき、外見が似ていた申崇謙(シン・スンギョム)将軍が王建の服を着て戦い、戦死した。さらに現代においても、「影武者」は絶えず存在している。
ナチス・ドイツのヒトラー、旧ソ連のスターリン、キューバのカストロ、リビアのカダフィ、イラクのサダム・フセインといった独裁者は、一様に影武者を使った。独裁者ほど暗殺を恐れ、自分そっくりの代役を公の場に立たせたという。
ヒトラーの場合、「写真によって背丈が少しずつ違う」という点が明らかになった。これは、日本のジャーナリスト・落合信彦氏などが、ヒトラー影武者説の根拠にしている。さらに、けん銃自殺を遂げた後に発見されたヒトラーの焼死体は、実は影武者の死体だったという主張まで出ている。
ならば本物は? ここから、山のような推測が乱舞する。本物のヒトラーは南米に脱出し、整形手術を受けた後、平穏な余生を送ったという説。あるいは、旧レニングラード(現在のサンクトペテルブルグ)のエカテリーナ宮殿「琥珀の間」から強奪した宝物を軍艦とUボートに積み、逃亡したという説。
立証できるだけの証拠はないが、最近、意外な報道が飛び出した。今年9月、米国コネチカット大のニック・ベラントニー教授は、ロシアの国家記録保存局に保管されている「ヒトラーの頭蓋骨」のDNA分析を行ったところ、「20-40歳の女性」という結果が出たと発表した。では、この頭蓋骨はヒトラーのものではなく、ヒトラーと共に自殺した愛人のエヴァ・ブラウン(当時33歳)のものなのか。この頭蓋骨には銃弾の跡が残っているが、エヴァ・ブラウンは毒薬を飲んで自殺したといわれている。
ならば、真実は次の四つのうちのどれか一つ。分析が間違っていたか、エヴァ・ブラウンがけん銃自殺したか、ヒトラーが女性だったか、あるいは頭蓋骨の主が「影武者の女性」だったか。どれも信じがたい話ではある。
「影武者」が内幕を暴露したケースもある。ロシアの元俳優フェリックス・ダダエフ氏(83)は昨年4月、自分は鉄血の独裁者ヨシフ・スターリンの「影武者」4人のうちの一人だったと主張した。
ダダエフ氏は、スターリンに扮装して訪問客と会い、革命記念パレードを査閲し、演説を代行したこともある、と語った。スターリンより47歳も年下だったが、年の差はメイクで克服できたという。ダダエフ氏に白羽の矢を立てたのは、国家保安委員会(KGB)の前身に当たる内務人民委員会(NKVD)。一度だけ会った「本物の」スターリンは、何も言わず笑ってうなずいたという。しかし、「スターリンは大衆の前にほとんど姿を現さなかったため、代役は不要だった」という反論もある。
サダム・フセインが「影武者」を活用していたという話も、かなり前から出ている。19年間にわたって「偽サダム・フセイン」を務めていたと主張する人物の著書が、レバノンで出版された。その人物は、強制的に整形手術を施された後、フセインの真似をする訓練を受けたと語った。
アラブの時事週刊誌『アル・マジャラ』は、「1998年から2002年まで、本物のフセインは一度も公の場に現れておらず、代わりを務めたのは3人の代役だった」というドイツの専門家の主張を掲載した。
「金正日影武者説」を主張している人物は、韓半島(朝鮮半島)専門家として知られる早稲田大学の重村智計教授だ。重村教授は、昨年8月に出版された著書『金正日の正体』で、「本物の金総書記は2003年に既に糖尿病で亡くなっており、それ以降登場する金総書記は代役」と主張している。
その根拠として重村教授は、▲03年9月9日から10月20日まで、金総書記の動静が全く報道されなかった点▲06年春に撮影された金総書記の写真で、身長が2.5センチ高くなっている点-などを挙げた。さらに、金総書記の長男・正男(ジョンナム)氏や妹の敬姫(ギョンヒ)氏の会話の中に、「あいつは将軍様の指示を守らず、わたしたち家族をおろそかに扱っている」という内容が含まれているとし、この「あいつ」こそが、「影武者」というわけだ。
この話が本当ならば、07年10月に盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領と南北首脳会談を行った際に登場した金総書記も「影武者」ということになる。しかし重村教授は、ABCとのインタビューで、「今年4月5日の最高人民会議に現れた病弱な姿の金総書記が本物なら、8月にクリントン元米大統領と会った人物は代役だ」と語っている。
明知大記録情報科学大学院のカン・ギュヒョン教授は、「重村教授は主張を変えており、そこだけ見ても信ぴょう性がない」と指摘する一方、「クリントン元大統領との面会の際、金総書記の健康状態が急に良くなったように見えたのは、かなり怪しい」と主張した。(朝鮮日報)>
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