1018 ゴッドマザー直伝の選挙運動 古沢襄

いつの選挙だったか忘れてしまったが、横手征夫氏から「アルバイトをしないか」と誘われた。福田赳夫氏の選挙区で政治評論家と称して応援の講演をして回るというのである。週刊誌や地方紙に政治評論のアルバイト原稿は書きなぐっていたが、人前で講演する経験はしたことがない。新聞記者は筆一本で立つものだと信じていた。
「これも経験、あれも経験!」とおだてられて、酒の勢いもあって、会社には三日間の夏休み休暇をとって、群馬県で慣れない講演行脚なるものを引き受けた。朝、旅館についたら若い人が待っていた。その人の運転するマイカーの二人行脚で、一日に数カ所でミニ講演をして回るはめとなった。
講演会場は田舎の小さい公民館。三〇人ぐらいの選挙民を相手に「福田赳夫先生はいずれ総理大臣になる」と喋って次の講演会場に行く。二、三度同じことを喋っている中にクソ度胸がついてくる。アルバイト原稿を書くよりも楽だな、と思った。
次の講演会場に行く車の中で、運転してくれた福田後援会の青年部の若者が「福田選挙は奥さんの三枝夫人で持っている」と言った。飾らないおばさん風の三枝夫人が、実はゴッドマザーだと初めて知った。
その三枝夫人が病気になって群馬に入れない選挙があった。トップ当選を重ねていた福田氏が、その座を中曽根康弘氏に奪われたという。「福田選挙は婦人部がフル活動するから強いのです。選挙民の半分は女性ですから・・・」。
アルバイト講演の最終日は渋川市であった。会場に案内されたら500人近い聴衆は女性ばかり。さすがの私も上がってしまって、何を喋ったか記憶に残らない。だが、この経験が今では生きている。
福田康夫氏の貴代子夫人も選挙区では絶大な人気があるという。ゴッドマザー直伝の選挙運動をしているのであろう。素朴な田舎の人たちには、都会風の気取った奥さんは馴染まない。政治家が選挙に強いか、弱いかは、内助の功がある夫人を持つか、どうかに懸かっている。

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