5484 「普天間」最終案、米国の同意優先…地元反発 古沢襄

鳩山首相が党首討論でいった”腹案”が自民党議員から概略が漏れたのは皮肉な出来事となった。その腹案も当初、鳩山氏が抱いた構想からかなり後退しているとみるべきであろう。それは米軍基地の有事駐留という鳩山氏の理想論が現実に政権を担当することになって、米国との交渉過程の中で現実論に立たざるを得なくなった帰結といえる。
普天間移設をめぐる鳩山氏の迷走といわれるものは、理想論から現実論に移る過程で露呈した。これは一概に非難されるものではない。日米軍事同盟を維持しながら、将来的には米軍基地の有事駐留という日本の意志を米国に伝え続けることが必要だからである。
ただ鳩山氏が政権交代によって理想論が実現できると楽観視したフシがある。オバマ大統領なら全面的とはいわないまでもかなり理解してくれるという”思い”があったのではないか。その”思い”が日米交渉で打ち砕かれたところから、迷走が始まっている。
国内的にみれば鳩山首相は、まず首相就任と同時に米軍普天間基地の現状を視察し、そこから移設問題の現実的なアプローチをするべきであった。現在に至るまでも鳩山首相は沖縄に足を踏み入れていない。五月四日に沖縄訪問すると取り沙汰されているが、遅きに失した観が拭えない。
普天間移設を解決し、そのうえで常時駐留なき米軍基地という理想型を追うのが日本外交の目指す道ではないか。これは言うべくして、行うのには時間がかかる。地政学的に日本の置かれる位置は、民主主義という共通の理念を持つ米国と離れては、安全保障体制が維持できないからである。
鳩山首相は、この手順を踏まずに米軍基地の海外移設を唱え、成算のない普天間の県外移設に突き進んだ。沖縄の反基地感情に火をつけてしまい、県外移設の対象となった徳之島の島民にも移設反対の火をつけた。
ここまで燃え広がった反基地感情を無視して、腹案といわれる米軍キャンプ・シュワブ沿岸部移設の手直し案と徳之島へのヘリ部隊移転などを組み合わせる案をセットにして提示しても地元の理解は得られないであろう。残るのは根本課題である普天間基地の危険性である。
<米軍普天間飛行場移設問題で、沖縄での「県内移設」である現行計画を基本とする政府の移設案が28日、大筋で固まった。
現行計画を「唯一実現可能」として主張してきた米国の同意を優先させた形で、今後、沖縄や社民党の一層強い反発が予想される。
◆一定の理解?
公約した「5月末決着」まで1か月に迫り、鳩山首相は28日、自ら調整に乗り出した。初の沖縄訪問を表明し、移設先にあがる鹿児島県・徳之島に影響力を持つ徳田虎雄・元衆院議員とは直談判した。日米のもともとの合意に基づく現行計画に「回帰」したことで、首相は米国の一定の理解を得られたと踏んだようだ。確かに、外務省の梅本和義北米局長らと28日に会談したキャンベル米国務次官補は会談後、「よい話し合いだった」と満足そうだった。
◆不発?
しかし、問題は、米国以外の当事者との合意形成だ。首相は決着を「米国、移設先の地元、与党の3者同時に同意を得る」としてきた。
周辺によると、首相は当初、30日にも沖縄での「県内移設」と、徳之島への移転に強く反対する社民党に話を通した上で、沖縄入りするつもりだった。沖縄では、仲井真弘多(ひろかず)県知事に最終案を示し、沖縄県内で発表することも検討していた。
ところが、首相は28日、徳田氏に徳之島案の受け入れを要請。同席した次男の自民党衆院議員・毅氏がこの後、記者会見して内容を発表してしまった。
いくら地元議員でも、社民党より先に自民党議員に伝えたことは不用意ともいえる。首相は28日夕、記者団に「まだ政府案が最終的に固まっているわけではない」と苦しい説明だった。
「出来ることは協力したいと思っているが、基地問題は無理だ」
徳田氏は首相に協力を拒んだ。徳田氏は全身が徐々にマヒする筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)を患い、会話が不自由となったため、文字盤を使っての会談だった。首相は食い下がったが、同島の3町長との面会への協力を取り付けるのがやっとだった。
さらに、18日に移設に反対する大規模な島民集会が開かれた後に、3町長の頭越しに徳田氏と面会したことは、地元に対しても、反発の火に一層油を注いだ。伊仙町の大久保明町長は28日、鹿児島市内で記者団に「なぜこんな形で訪問するのか。普通のやり方じゃない」と不信をあらわにした。
名護市の稲嶺進市長も那覇市内で記者団に、現行計画の修正案に「まかりならない。先頭に立って反対する」と怒りを表明。社民党の重野幹事長も記者会見で「あらゆる方策を講じて、何としても県外、国外実現のために頑張る」と訴えた。
◆腹案?
28日に固めた移設案は、首相が繰り返した「腹案」だったのかどうか。疑問視する声が多い。
首相は3月31日の党首討論で「腹案を持ち合わせている」と発言した。この時、政府は名護市の米軍キャンプ・シュワブ陸上部か、うるま市の米軍ホワイトビーチ沖の埋め立て地に代替施設を作り、徳之島へのヘリ部隊移転などを組み合わせる案を柱にしていた。首相の「腹案」もそれが念頭にあったようだ。
この案について米側は、ルース駐日米大使が今月9日、岡田外相に〈1〉米軍の運用面で現実的でない〈2〉地元合意がない――などと厳しく指摘。米側寄りの現行計画修正案は、その後になって、苦肉の策としてひねり出されたもののようだ。(読売)
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