770 寧辺原子炉を高く売りつける 古沢襄

時事通信社がソウルから伝えてきたことによると、北朝鮮は六カ国協議の首席代表会合を前にして、新たな要求を出してきた。こちらが譲歩すれば、新たに値段をつり上げてくる北朝鮮の常套手段だから別に驚くに値しない。問題は前のめりになっている米国が、さらに譲歩を重ねるのか、の一点に懸かっている。
したたかな北朝鮮は13日、朝鮮人民軍板門店代表部の談話を発表し、朝鮮半島の平和と安全保障問題を討議するために、国連の参加の下で米朝が直接の軍事会談を開催する提案を行った。朝鮮中央通信の報道による。
この意味は重要である。北朝鮮の核計画をめぐってクリントン民主党大統領下の1993年に米朝交渉が行われた。米側はロバート・ガルーチ国務次官補、北朝鮮側は姜錫柱第一外務次官。米国が北朝鮮政府の正統性を認めた瞬間である。同時に朝鮮半島の平和をめぐって韓国を外した米国が、北朝鮮と直接交渉した瞬間でもあった。
今回の北朝鮮提案の狙いは、クリントン時代に戻って米朝が直接の軍事会談を持つことにある。六カ国協議の意味は薄れ、主催する中国の面子は丸つぶれとなる。一生懸命に原油支援、食糧支援のサービスをしている韓国の立場もなくなる。
北朝鮮は最初から六カ国協議に重きを置いていない。米朝直接交渉の一本に絞ってきている。対する米国は直接交渉は避けたい。そこでヒル国務次官補は日本とロシアを除いた四カ国協議を匂わせている。朝鮮戦争の休戦協定を平和体制に転換する協議という大義名分がある。
これなら拉致問題でうるさい日本外しが可能である。それでは露骨なので、米国は六カ国協議と四カ国協議を平行して走らせようとしている。四カ国協議の枠内で、北朝鮮と話をつけたい。
そこに北朝鮮は米朝の直接軍事会談という直球を投げ込んできた。時事通信社の記事を見てみよう。
<【ソウル13日時事】朝鮮中央通信によると、北朝鮮の朝鮮人民軍板門店代表部は13日、談話を発表し、朝鮮半島の平和と安全保障に関する問題を討議するため、国連の参加の下、米朝軍事会談を開催することを提案した。韓国の通信社・聯合ニュースなどが伝えた。
核問題をめぐる6カ国協議首席代表会合が18日から始まることを念頭に、休戦協定を平和体制に転換する議論を米朝の軍当局間でも進めていきたいとの意思を示したとみられる。米国との軍縮会談開催や在韓米軍の撤退を画策する狙いもあるとみられる。
談話は一方で「米国が核問題を口実にして今後も圧力を加えるなら、やむを得ず米国の核攻撃と先制攻撃に備えた対抗手段をより一層完備していくことに総力を傾けざるを得ない」と米国の対応次第では核能力の増強を進めていくとの考えを強調。この場合、6カ国協議の合意履行や協議そのものが「吹き飛ぶ」と警告した。>
クリントン時代の米朝直接交渉は、いくつかの教訓を残している。米国の偵察衛星が発見した寧辺の五メガワット(五〇〇〇キロワット)原子炉は、北朝鮮による独自設計炉で、まだ実験段階にあった。
偵察衛星は原子炉近くに核燃料棒を取り出し、化学処理して原爆用のプルトニュームを抽出するとみられる工場の建設工事もキャッチした。米CIAは原爆を一、二発つくれるプルトニュームを北朝鮮は持つと判断している。
ガルーチ・姜錫柱会談で米側は寧辺原子炉の稼働停止を要求した。国連安保理事会での制裁決議の準備にも乗り出してた。一九九三年ジュネーブで開かれた米朝交渉で、姜錫柱は米側の意表を突く逆提案を行っている。
静かに話し始めた姜錫柱は「もし国際社会が北朝鮮のエネルギー需要を満たすために、より近代的で核拡散の恐れが少ない軽水炉を提供すれば、転換する用意がある」と言った。会議に出席していた米側の技術専門家は耳を疑っている。
単純にいえば北朝鮮が保有している寧辺の黒煙炉は、米国の大きなオフィスビル五つ分の電力しか供給できない。五メガワット原子炉とは、そういう数字に他ならない。標準的な軽水炉が二基あれば二〇〇〇メガワット、ワシントン周辺の電力需要を満たす数字である。
よく考えれば姜錫柱提案は過大な要求なのだが、北朝鮮の核保有を断念させるために「軽水炉の導入を支援し、その入手方法について北朝鮮とともに研究する」声明をガルーチは出している。米国は北朝鮮が自前で作った五メガワット原子炉を封印することに優先順位をつけたわけである。
ここで北朝鮮の本当の腹を探る必要がある。朝鮮半島で北地域は山岳地帯の豊富な鉱山資源を産出する、南地域は平坦な農村地帯である。豊富な電力を確保できれば、北朝鮮の工業化は一気に進む。核を保有して米国の攻撃を招くよりは、工業化によって韓国を圧倒する将来地図を描いたのではないか。
この構図は今も変わらない。後はご用済みとなった寧辺原子炉を如何に高く売りつけるかであろう。米国は一時合意した軽水炉を提供するつもりはない。軽水炉工事は中断されたままである。基本的には北朝鮮の必要電力は重油を焚く火力発電で足りるという立場をとっている。
一見すると北朝鮮の核放棄が進んでいるかにみえるが、このスレ違いがあるかぎり本格的な核放棄の道程は険しいとみざるを得ない。当事者の米国は突破できると踏んでいるかにみえるが、中国はかなり慎重な立場を守っている。朝鮮人民軍板門店代表部の談話は、この脈絡でみておく必要があるのではないか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました