2211 子育てのアウトソーシング 平井修一

昭和26年生まれの小生にとって、子供時代は「三丁目の夕日」の世界だった。父はサラリーマン、母は専業主婦、向こう三軒両隣は「隣組」として味噌、醤油を貸し借りしたし、慶弔のときは助け合ったりもした。
街のオジサン、オバサン連中はたいがいが同級生の父母であり、町内会の草むしりや子供会などを通じて顔なじみだった。小学校の運動会も町内会で一角を占めて応援したものである。
小生、父が使い終わった古カバンの底に50円玉を見つけてお菓子屋で菓子パンを買ったが、50円というのは今の500円ほどの価値はあり、普段の小遣いは5円か10円。
お祭りのときの小遣いが50円だったから当時としては大金である。菓子屋のオバサンは母に「修ちゃんが50円を持ってパンを買いに来たけど」と注意喚起したから、小生は母から詰問されて叱られた。
友達の家でおやつをもらったり、時には食事をご馳走になったことも珍しくない。街全体が子供をケアし、育てていたのである。
それから50年近くたって「三丁目の夕日」の世界は一掃された。隣の家との交際はまったくといっていいほど無くなった。街という一種の地縁共同体、今で言うコミュニティーが消えてしまった。
核家族も進んだ。3世代が同居する家は稀になった。若い夫婦は自分たちだけで子育てをしなければならず、豊かさを求めるために専業主婦は少なくなり、「外職」するようになった。ますます子育ては難しくなっている。
「三丁目の夕日」が沈んだ頃から「鍵っ子」が増えてきた。夫婦共稼ぎで、学校が引けても家には誰もいないから、鍵をもって遊びに出るのだ。寂しい話である。
これではとてもじゃないが2人、3人の子供の面倒は見切れない。大学を出すためには結構な金がかかるから、よほど甲斐性のある夫でなければ、妻も働きに出ざるを得ない。家は留守がちで満足な育児はできない、だから子供は一人、多くても二人、あるいは子供は要らない、となりがちだ。
少子高齢化時代だ、このままでは高齢者を支えきれないし、日本の人口は減る一方で経済成長もおぼつかないから「産めよ、殖やせよ」と皆が言うようになったが、出産適齢期の夫婦はマンションの頭金を貯めなくてはならず、共稼ぎを止めるわけにはいかないから「子供を産む余裕がない」「子供は1人で精一杯」と、笛吹けど踊らず。出生率はちっとも上がらない。
この際、根本的に発想を変えるしかないのではないか。「子供は天からの預りもの、天下の宝、親に任せずに社会全体で育て上げる」と。「フルタイムの共稼ぎを当たり前とし、家庭をくつろぎの場とするために仕事と生活のバランスを保つことが大事」と。
●出産にかかわる費用の無料化
●出産前後1年間の出産・育児有給休暇(夫は3ヶ月)
●保育サービス(子供園、ベビーシッターなど)無料化(ボランティアの活用)
●中学生まで子供の医療費無料化
●家事の合理化・効率化(半製品食材の宅配、洗濯・掃除サービスの活用など)
●適齢期の夫婦に2人以上産めば利息が低下していく住宅ローン、および公営住宅は賃料逓減し優先入居
●子供の入学金、授業料の逓減
地域の住民がこぞって子育て請負っていく。中学生までは、父母だけが育てるのではなく、地域が主に育て、父母は子の癒しの空間として家庭を運営するのである。官民、ボランティア、そして親がともに力を合わせて育てるのである。
その受け皿組織が「一心助け隊」である。育児から教育、医療、法律まで横断的なスタッフがそろっており、ここに相談すればワンストップでソリューション(解決策)を得られるという組織だ。
老人のケアなら「シルバー一心助け隊」を作ってもいいだろうが、それはまた別の話にしよう(この分野は医療保険、介護保険でかなり手厚い福祉サービスを受けているから)。
今最も必要なのは出産・子育て支援である。この分野に資源を投入しなくてはならない。
道路特定財源の一般財源化、消費税増税、累進課税の負担増など痛みをともなうが、「フランスでは第二子誕生への経済的支援は71万円と手厚い。日本と59万円の差」(林志行「現代リスクの基礎知識」)というお粗末な情況では亡国である。高福祉、高負担へ大きく舵をきらないと手遅れになるだろう。
JETRO「ユーロトレンド2000」はこう報告している。
<フィンランドでは子育てを手厚く支援している。出産育児休暇は約11ヵ月で所得保障がある。休暇後子供が3歳になるまでは無給だが、子育てのために休職することができる。
20年程前から父親も子供が産まれた時に父親休暇を取れるようになった。今では60%以上の父親がこの休暇制度を利用しているといわれる。フィンランドのリッポネン現首相も2000年にこの休暇を利用した。
フィンランドはプロテスタントのキリスト教の国で、避妊、中絶は自由である。女性の約70%(97年)が働いている。それでも出生率が1.82(93年)と高率なのは、少子化対策、子育て支援政策に力を入れ、それが実を結んでいると考えることができるであろう。
高齢化と少子化は切り離して考えられない。高齢化、少子化が進めば女性の労働市場進出がより進むと考えらる。保育を充実させることによって働く女性を支援し、それが少子化を防止することにもつながるとフィンランド人は考えている。>
こうしたインセンティブは日本でも有効だろう。フィンランドの経済学博士、メリヤ・カルッピネン氏は仙台フィンランド健康福祉センターR&D所長及びFinproビジネス促進デイレクター(仙台におけるフィンランド政府代表)を務めているが、東北経済産業局広報誌「東北21」にこう書いている。
「3歳未満の子供を持つ女性の50%、3歳~6歳の子供を持つ女性の90%が仕事を続ける。・・・フィンランドの母親が、家事をしながらフルタイムで働くためには、合理的で機能的な方法を生み出さねばならなかったため、2つの方法が採られた。家事を簡略化することと子育てのアウトソーシングである」
アウトソーシングと言えば実もふたもないが、要は社会全体で子育てに当たるということである。
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