1011 中国がドル資産を売却する 宮崎正弘

不思議な報道が世界に流れた。発端は英紙「テレグラフ」で、「中国は核オプションを行使」と言うのである。
NY連銀発表では7月統計で480億ドルの米国債が市場で売却され、8月の二週間でも320億ドル、合計800億ドルが売り抜けられた。
これは「ありあまる外貨準備を持つ中国が、米国議会の中国批判に対応して政治的武器として使った反撃である。まさに『核の選択』だ」などとセンセイショナルに書いた。(同誌、9月6日付けおよび10月8日付け)。
後追い記事はロシアの『プラウダ』英語版に出た(10月9日付け)。「ドル暴落は必至、ドルは崖っぷちに立った」と欣喜雀躍の見出しが踊った。
現実に、九月にドルはいくぶん下がったが、逆に人民元の高騰も止んだ。不思議な符丁だが、中国がドル暴落を望んでいない、なによりの証拠である。
簡単な図式である。
中国の輸出の70%は、海外企業が中国へ進出しての現地生産、それも過半はアメリカ企業である。GM、フォードからコカコーラまで。
米国の消費市場は中国製品に溢れ、アメリカ企業は要するに中国依存で成り立ち、中国もまたアメリカ企業を通じて米国市場にどっぷり浸かっている。
これは両国の普遍的利益であり、北京がドル安を企図して、政治的武器になにかを使ってドル暴落を演出することは中国の利益にはならない。これを山崎養正氏は「米中経済同盟」と喩えたが、言い得て妙である。
中国の思惑とは関係がなく、ドルが雪崩を打って安くなりそうな兆候はたしかにある。
サブプライム(低所得者向け住宅ローン)の破綻は、かなりのブローを米国経済に与えた。しかし、全体でみれば、6兆ドルのGDPのなかの、最悪に見積もっても、4000億ドル内外の規模であり、崩落の切っ掛けにはなりにくいのではないか。
ドルの10%程度の下落なら、日本にとってはプラスマイナス・ゼロ。中国経済は、足がもつれるほどの打撃になるだろう。資源輸出の大半の決済をユーロ建てとしたロシアだけは、哄笑することになるだろう。
こう考えてみると英紙のニュースをことさら転載したのがロシア紙だけであったことも、なんとなく納得がいくのである。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)

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